執筆・講演

経済同友会セミナー
2005. 4.15

 第18回全国経済同友会セミナーが4月14、15日の2日間にわたり、名古屋にて開催されました。異国・異文化との交流が人類の歴史を動かす原動力であり、それが大規模化し「大交流」時代を迎えた。同セミナーでは、こうした時代の真っ只中で、確固たる地位を築き、責任ある役割を果たすために「日本(くに)」の様々な側面を検証し、政策提言を発信しました。アフラック(アメリカンファミリー生命保険会社)・創業者 最高顧問・(財)国際科学振興財団会長 大竹美喜は、議長 関西経済同友会代表幹事 松下正幸氏、セーレン(株)社長 川田達男氏、オプテックス(株)社長 小林徹氏、(株)アミノアップ化学社長 小砂憲一氏とともに「日本発、新産業への挑戦」〜世界市場が求める期待に応えて〜をテーマとした分科会のパネリストとして参加。「日本に求められるベンチャー企業の定義」と「国際科学振興財団の活動」について提言を行いました。

「日本に求められるベンチャー企業の定義」

日米の風土の違い
 中小企業庁の2001年のデータによると、15万社が開業して、22万社が廃業しています。一方、アメリカの中小企業は、米国スモールビジネスアドミニストレーション2001年のデータによると、約58万社が開業し、約55万社が廃業しています。全体では2002年時点で約2,290万社の企業のうち99.7%が中小零細企業。そして、このうちの2割(約450万社)が毎年倒産し、それと同じだけの企業が誕生しています。まさしく多死多産です。米国が、多死多産としたら、日本は、少死少産といえるでしょう。
 なぜ、このように、日米の差があるのでしょうか?いくつか要因があると思いますが、大きな要因のひとつとして風土の違いがあると思います。日本は失敗が許されないという風土があり、創造性が発揮しにくい。アメリカ人は、10社に関与して、1つか2つ当たればいいと考える。8回、9回失敗しても敗者復活ができる社会構造であり、新しいものをとりいれることを恐れません。反対に日本人は、失敗を恐れて、失敗から学ぼうとは思わない。
 米国では、「リスクがあっても挑戦し、成功する人を高く評価し、尊敬する」ということがあります。しかし日本はその点が欠けていて、何か、はみだして成功するひとたちをねたんだりすることがあります。こうした意識の違いもあるように思えます。
 また、米国のベンチャー企業の起業家は大企業出身者が多いが、日本では、“起こす「起業家」”は、親の職業に影響された人が多い。そこで、米国では、大学院や大学の高等教育で勉強した人が、事業を起こす、いわゆる「教育による起業」が多いのに対し、日本では、先ほども述べた通り、「親の職業と関係する起業」が多いという点にも、日米の差があるように思います。

「景気がいいと起業する」米国のマインド
 日米の売上高上位500社について比較してみますと、米国はどの年代を通じても設立件数と景況感との相関が日本に比べて強く、好景気時の設立件数が増加する傾向にあります。つまり「景気がいいと起業する」という起業家マインドが根づいていることがわかります。それに比べ日本は、1996年までは設立件数と景況感は逆相関の関係にあり、ようやく96年以降、米国同様 相関関係となりつつあります。このことから、96年以前の日本では、既存の大企業や中小企業が経済を牽引していたと考えられ、また、景気がよい時に自ら起業するという文化ではないことが読み取れます。
 ところが、96年以降になると、バブル崩壊後の日本経済の構造問題の顕在化とともに、社会の構造、またはマインドが変化したのでしょう。
米国同様に企業の設立件数が景気と相関関係になります。これには、また、大企業の再編により新会社の設立が増加し、これが景況感の上昇に貢献した可能性も出てきたと考えられます。

雇用を創出している企業が多い米国
 さらに、日米の1970年以降に設立された企業のうち、売上高上位10社を比較してみますと、日本の場合は、ほとんどが大企業系列または外資系であり、国内市場での活動を主としており、大部分が製品やサービスを提供している企業です。そのため、海外で外貨を獲得できる企業が少なく、国内でお金を循環させる企業が成長企業であるということが第一の特長としてあげられます。第二の特長として直接的に大きな雇用を創出している企業が少ないことです。パチンコやモバイルなどの企業は周辺産業まで含めると巨大な企業群であり、全体としての雇用は大きくなっていますが、拡大期を過ぎているため今後これ以上の拡大は期待できないのではないかと考えられます。
 一方、米国では、国内を主戦場としている企業が多いものの、すべて米国籍の企業が占めています。業種は流通業に偏りがちですが、日本と比較すると業種のバラエティに富んでおり、Dellのように革新的な手法を用いることによって成長を遂げた製造業も含まれています。人口、GDPの差を考慮しても、日本と比較して大きな雇用を創出している企業が多い、ということが言えます。

 このようなことから、今、日本で必要とされるベンチャー企業の姿を描いてみますと、大きく次の5つの要素に集約できると思います。
1つ目は 高い志を持ったリーダーがいる
2つ目は イノベーションがある
3つ目は 変化を先取りする感性とマーケットを生み出す発想力がある
4つ目は 成長性がある
5つ目は 世界のマーケットを視野に入れることだと思います。
そして従来の大企業依存型でない独立性があるということも重要な要素となってくると思います。

「自立、独立、自己責任の原則」の徹底が求められる地方分権
 現在はベンチャー育成において自治体の地域経営力が問われています。これまで「地方」は「国」に依存し、コスト意識のない行政運営をし続けた結果、地方財政の悪化をきたし、「地域の活力」というものを失ってしまいました。
 今、この悪循環に終止符を打ち、地域経済再生の道を考える時、いかに地方が国の関与や規制を排除し、その地域の次世代の産業の芽を育て、起業家の意欲を引き出すかにかかっているように思います。前岐阜県知事・梶原拓氏は、異質な人が交流し、新しい発想、発見、発明が生まれる。こうした交流の場を提供することも自治体の役割だと提言されています。
 各自治体では、新しい技術やビジネスなどを開発した新興企業のみならず、従来の技を時代のニーズに合わせて組替え、新たな付加価値をつけようとしている地場企業などもその育成の対象とし、さらには、企業間の連携、特に、下請け企業の連携のようなビジネス・プロセスの開発に対しても支援していくことが求められています。
 また、企業と同様に、地域の経営資源、とりわけ文化や歴史、人材などのソフトの資源を使って、それをどのように市民、行政の利益にしていくかも地方の重要な役割です。もはや国から権利を分けてもらうということではなく、地域の「主権」をどうするかが問われています。地方の企業にも行政にも「自立、独立、自己責任の原則」の徹底が求められていると思います。

技術立国を目指した政策を
 民間としての努力も必要ですが、国としても技術立国を目指した政策が必要であると思います。日本の状況をみてみますと、1995年に科学技術基本法が制定されましたが、民意が科学技術政策に反映されているとは言いがたい状況です。ですから日本も新技術立国を目指した政策を進めていただきたいと思いますし、私も微力ながら尽力していきたいと考えております。

国際科学振興財団の活動
 ベンチャー支援の具体的な仕組みとして、産・官・学連携により研究を推進している国際科学振興財団の具体的な活動として「半導体の安価な生産研究」、「ヒマワリを原料としたディーゼル燃料の研究」、「笑いと健康の研究」の成果について紹介しました。

 国際競争力が低下したわが国の半導体産業の復活を目指し、財団と東北大学、それに多くの国内半導体関連企業が力を合わせた超大型プロジェクトを展開し高性能な半導体チップを迅速に生産、製造費を従来の10分の1に抑制しようとする試みです。中心となって研究を指導いただいている東北大学の大見先生は、2003年に京都で行われた第2回産学官連携推進会議産学官連携功労者表彰において最高の賞である総理大臣賞に輝きました。
 ヒマワリを原料としたディーゼル燃料の研究、実験を島根県斐川町と実施しています。この研究成果は、研究を行っている筑波大学の松村教授等による大学発ベンチャー設立へと発展し、現在タイ東北部でひまわりの最適品種を確かめる試験培養が開始されています。
 日本では昔から「笑う門には福来る」ということわざがありますが、このことわざを証明するために、吉本興業と財団、筑波大学の連携により実施されました。漫才を聞いた前と後では、どの遺伝子のスイッチがはいるかという画期的で、意欲的な試みです実験の結果、「笑い」によって多くの遺伝子がオンになるという世界で最初の結果を得、学会だけでなく、マスコミなどでも大きく取り上げられています。

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