執筆・講演

淑徳大学オープンカレッジ 「21世紀を担うリーダー養成講座」
2009年5月30日

企業経営と私のリーダーシップ

リーダーの役割

私は始めから社長をやったわけではありません。創業当初は、大蔵省にお願いして、保険部長を経験された人に社長として来ていただきました。その後、東京銀行出身で輸銀の理事をされた人、さらに東京海上の専務経験者に来ていただき、3人の社長の下、副社長として仕えました。
その間、11年間にもなるのですが、営業担当副社長として営業部門を担当してきました。この11年間に、若かった私は社長との関係で、人に仕え、支えるとはどういうものであるかを学びました。人についていくことはどういう意味があるのか?どういうTOPならついていきたいと思うのか?こういったことを3人から学びました。つまり、フォロワーの立場から逆にリーダーを眺めることが出来たということです。

3人の社長から、私が学んだものは次のような点です。

1.初代の役所出身の人からは、ルールの大切さ
2.2代目の東銀出身の人には、金融の見方と金融機関としてのマネジメントのあり方
3.3代目の東京海上出身の人には、民間の保険会社のマネジメントのあり方を含め企業のトップとのあり方、リーダーとしての責任の取り方、考え方、行動の仕方

理論を解釈し、理屈を振り回しても実際の現場では何の役にも立ちません。
むしろ、現場から学び現場に如何にして戻し、役立てていくかということではないかと思っています。
またこの時代に、リーダーの役割とマネージャーの役割についても、ある方からはマネジメントを、またある方からはリーダーシップを学びました。

しかしながら私の役割は安定的な成長を続けるAflacのマネジメントよりもAflacの将来をどうするか、ということであるとも思っていました。

これには理由があります。Aflacは「がん保険」に特化した会社だったのですが、早かれ遅かれ競合会社が出てくるということが予想できました。

そのとき、Aflacは、生命保険を扱う一般の保険部門に進出すべきか、それともがん保険の専門会社として生き残るかという決断を迫られていたわけです。私たちは徹底的に議論しました。
そして、一般の保険部門(第一分野)には進出しないで、がん、医療、介護保険の第三分野に特化する戦略の道を選択しました。そして、創業10周年を記念して、この分野でまだ売り出されていない「痴呆介護保険」いわゆる「ぼけ保険」を開発し、世界ではじめて販売しました。

一方、がん保険については、創業7年後から競合会社が現れだしましたが、そのときには、我々は、よりお客様のニーズに対応できるよう保障を充実させた  がん保険を発売することで対応しました。

リーダーシップとマネジメント

私は今から10年前の1999年に「リーダー改造論―21世紀型リーダーシップとは」という本を出版しましたが、その中で、次のように述べています。
リーダーの役割とマネージャーの役割とは似て非なるものである、と。

両者とも同じように組織をまとめる役割を持っているが、内容は全く違う。
リーダーの指示や命令は目先の利害に追われてはならない。組織全体を見渡し、将来のことまで考える。戦略的な視点が必要なのである。マネージャーの役割は受け持つ部門を十分に機能させる役割を負い、上から与えられる目標を戦術として具体化させることである。
つまり、リーダーとは10年先を読んで、会社にとって何が大切なことかを常に考えて、それに焦点を当てて意思決定することが必要なのです。
先ほど申しあげた「第三分野」いわゆる“がん”、“医療”、“介護保険”に特化した販売政策は10年先を読んで考え、議論した結果だったのです。

要すれば、物事を緊急度と重要度で分類すると、緊急度が高いという観点から仕事をする人のことをマネジャー、重要度で仕事をする人をリーダーということができます。これこそが、リーダーとマネジャーを分ける違いです。 しかし、よく考えてみてください。会社を運営するには片方だけあってもうまくいきません。両方の存在が必要です。

有名な話ですので皆さんご存知かと思いますが、松下電器の松下幸之助さんには高橋荒太郎さんが、本田技研の本田宗一郎さんには藤沢武夫さんという優れたマネジメントを担当してくれたブレーンがいたのです。それぞれの機能と役割を果たしていたのです。松下さんや本田さんだけで経営していたら、会社はどうなっていたでしょう。とっくの昔につぶれていたかもしれません。松下電器や(今はPanasonicですが)、本田技研でマネジメントを担当していた高橋さんや藤沢さんは、他の会社でしたら立派にリーダーとしてでも通用した人達ですが、松下さんや本田さんをサポートする立場を通されたわけです。まさに車の両輪であったといえます。つまり、経営には両方の視点が必要であり、そのバランスがとれてこそうまくいくということなのです。

そこで重要となってくるのは、リーダーは、自分に無い才能を持っている人を側において、その人の意見を聴く、耳を傾けることができなければいけないということです。
少なからず自分とは違った見方を突きつけられる時もあるでしょう。
ご経験がおありかと思いますが、時には不快に感じることもあります。でも、人は全能ではないのです。それを拒否していたのでは、自分の独りよがりになってしまいます。
そうした意味で、リーダーは人の意見に耳を傾けることも必要なのです。

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