執筆・講演

三鷹市教育委員会・三鷹ネットワーク大学推進機構共同企画講座
特別講義「子ども・保護者・市民に求められる教師を目指して」
2010年3月13日

教師とは夢を与えること

結論
 教師とは、無限の可能性を秘めた子供たちに、夢を与える仕事であり、大きな影響力を与えます。ですから教師となる皆さんには「自己を確立」するとともに「人間力」を磨いていただきたいと思います。
 そして聖職者としての誇りと使命感をもって、次世代を担う人材を育てていただきたいと思います。

1.恩師からの教え

 "苔のつく石となれ"――この言葉は私が広島農業短期大学(現・県立広島大学)5期生として入学間もない頃に出会った、当時の学長の山根甚信農学博士から、ある時いただいた言葉です。山根先生には卒業後も何かと教えを請い、お世話になり、まさに人生の師と言ってよい方なのですが、アフラックの創業前、挫折を繰り返し、揺れ動く人生を送っていたとき、私の仕事振りを見てこの言葉を仰ったのです。
 「川を流れる大きな石が、目標とするところに落ち着いてどっしり安定すれば自然と苔が生える。人もあちこち道に迷って転々としていてはいけない。与えられたことに正面から向き合い、その場所にどっしりと落ち着き自分の得意な能力を発揮するよう努力することに価値がある」と仰りたかったのです。この一言で私の腹は決まり、アフラックの創業を決意しました。
 このように人との出会い、そしてよい師との出会いこそが生涯の大切な財産となるのです。

 私自身がそうであったように、人生を左右するほどの影響力のある仕事を目指されているのが皆さんです。山根甚信博士も勳二等旭日重光章を受章されるほどの教育者でした。 私自身、幼いころ教師に憧れ、その職に就けなかったという寂しさがありますので、これから皆さんが聖職で活躍されますことを大変うらやましく存じます。是非とも1人でも多くの子供たちに夢を与えていただければと存じます。

2.夢を与えるには
では、夢を与えるにはどうすべきか。まず教師となられる皆さんご自身の
第一に「自分探し」
第二に「好きで好きでたまらないこと」を見つける。
第三に「人間力」を養うことです。

 

「自分探し」
 皆さんは教師になるという明確なゴールを持っていますが、ほとんどの若者が、将来に対して明確なゴールをもっていないのが現実です。自分がどういう人間になろうかというビジョンもはっきりしていないのです。どうして明確なゴールやビジョンを持てないのか?これは若者だけではありません。さまざまな世代の方たちが、この変化の時代に不安定になっていると感じるのです。一生探し出せない方も大勢いると思います。

 しかし、変化というのは、これまで歴史の上でも常に起こってきたことです。最近はその変化のスピードがあまりにも速く、人々の心、つまり心理がそれに追いつけなくなっているのが不安の原因ではないかと私は分析しています。(うつ病患者が年々増大傾向)

◆ ソクラテスは「汝自身を知れ」と
 ソクラテスは「汝自身を知れ」と言いました。この言葉は、自分自身を知れば、自分の意志で、自分の責任で、自由に人生を生きるための選択ができると教えています。つまり、世間に流されず、自分自身にあった生き方がある、と

 教師であれ、企業経営者であれ、勤め人であれ、すべての出発点は、「自分」です。自分がどう生きたいかが明らかになって、はじめて本当の仕事ができると思うのです。つまり、「自分探し」は人生設計の原点になるのです。

◆ 3つの「命」
 「宿命に生まれ、運命に挑み、使命に燃える」(他者との比較はナンセンス) この言葉は故小渕恵三元総理大臣が、私に贈ってくださった言葉なのですが、3つの「命」があり、私たちは神様からどんな役割をするか「使命」を与えられているのです。それを見つけ出すことが自分探しなのです。なぜなら、使命というのは自分がほれ込んで、とことん尽くす、命がけで取り組むことから生まれてくるのです。このことは先月閉幕したバンクーバーオリンピックで活躍された選手の姿からもお分かりになるのではないでしょうか。そして、世のため人のために役立たない仕事には使命感など全く生まれてこないのです。

「自分探し」とは
 ですから「自分探し」とは年齢には関係ありません。人間には、「志」があります。当然、「好きなこと」「嫌いなこと」もあるでしょう。趣味をもって、生活をエンジョイしたいと思う反面、「生活」のために我慢しなれければいけないこともたくさんあります。このような狭間で、どう行動すればいいのでしょうか?こんなことを自問自答するには、もう年齢的に遅いのか? まだ大丈夫なのか?と思われるかもしれません。私は、「自分探し」は一生、続けていくものだと思います。

◆ 自分探しのヒント
ではここで自分探しのためのいくつかのヒントをご紹介します。
自分との対話を毎日、習慣づける
「自分は何者なのか?」
「自分は、どんなことが好きなのか?」
「自分は何を求めているのか?」
「自分の強み、弱みは何か?」
「自分の生きがいは何か?」

 こういうことを常に思いめぐらせ、自己対話の習慣を作ることです。1日、5分でもかまいません。そういう習慣を作ることです。

 私は毎日時間をとって自問自答しておりますが、それを支えてくれるのは古典です。世界のリーダーの多くも古典から学んでおります。私は古典とは、より善く生きるための昔の人からの「手紙」であると思います。

「好きで好きでたまらないことを」見つける
 自分が何者であるか見出せるようになったら次は、「好きで好きでたまらないこと」を探すことです。仕事を選ぶときは、これが一番の基本だと思います。仕事をする場合、それをこなす能力を持っているかよりも、それを本当に好きか、命をかけてもいいと思えるほどであるかで、人間のモーチベーションは全く違ってきます。
 皆さんにとって、教師の仕事は寝食を忘れても取り組める好きな仕事となりますか?

 「好きで好きでたまらないこと」を見つけることは簡単ではありません。それが、わかれば苦労しません。しかし「好き」だけでは食べていけない。そう、おっしゃる方もいるかもしれません。実は、私自身もそうでした。私も、自分がしたいことに出会えたのは32歳の時でしたから。ですから皆さんもあせる必要はありません。じっくりと「自分探し」と「好きで好きでたまらないこと」を見出していただきたいと思います。それがわかったとき、教師としての使命、役割が明確となり、子供たちを導くことができるのです。

私自身の体験
 なぜ、このようなことをお話させていただいたかと申しますと、私は今年で71歳になりますが、前半生を振り返りますと、「自分探し」に明け暮れた日々だったからです。そしてよき師といえる人々に出会い、導いていただきました。

◆ 両親の教え −父親の口癖は人生大学の優等生になれ!と・・・
 高校に進学してもサッカー部を作ったり、弁論部に入ったりして、盛んに高校生活を楽しんではいましたが、このままでは決められたレールに乗った人生しか送れないのではないか、庄原よりもっと大きな世界に飛び出してみたい、それにはどうしたらいいかという切迫した気持ちにもかられていました。
 そこで、父に、「高校を出たら、早稲田大学に行く。そして文筆で身を立てたい。」と、自分の気持ちを申し出たところ、真っ向から反対されました。「そんな甘い考えが通ると思っているのか。絶対に許さん」と。
 いま思えば、若気の至りではありましたが、私は親を説得するのはあきらめて、ひそかに行動計画を立てました。大阪で新聞販売店を開いて成功している郷土の先輩を頼って、大阪に行こう。そこで生計を立てながら、初志を貫く道を進もうと、誰にも秘密にして、家出の形で大阪に行きました。しばらくして、庄原高校の先生に見つかって、郷里へ引き戻されることになるのですが、そんな少年でした。そのときの父の教えは「人生大学の優等生となれ」という教えでした。私自身振り返りましても父母から素晴らしい教育を受けたと感謝いたしております。

◆ 庄原市長
 また、幼い頃より父母からは「世のため人のためになる仕事につけ」と教えられ育てられましたので、地元のために何かしたいという気持ちがありました。しかし、具体的にどういう進路を取ったらいいのか決めかねていた私に、重要なアドバイスを下さったのが、当時の庄原市長、八谷正義さんでした。私は高校生の分際で、生意気にも市長室へ八谷さんを訪ね、市の将来について自分なりの意見を話して、聞いてもらったりしていましたが、卒業が近づいた時、広島県立農業短大(現、県立広島大学)へ進学して、いずれ県職員として農業指導者になる道に進んではどうかと勧められたのです。

 八谷さんは、旧台北帝大や北大で林学の教授などを務められた学者肌の方だったので、高校生の私の話にも耳を傾けて下さり、教育者としてアドバイスもしたいというお気持ちがあったのだろうと思います。庄原からいったん外へ出て、将来を考えるにはいい機会でもありました。

 迷いに迷った20代から30代を経験したものですから、わたしには挫折や迷いに向き合う方たちを他人事とは思えないところがあります。悩み、考え続けることは大事です。そのプロセスがあるから、チャンスがとびこんでくる。私はそれから30年間、この道を歩いてきました。今でも、「まわり道が一番の近道だった」と思っています。

終わりに
 私が教育に何故、これほど熱心に取り組んでいるかと申しますと、教育以外、人、国を変えることができないという信念があるからです。このことは多くの国、企業を見てもお分かりいただけるのではないでしょうか。世界を代表するサムスンには「人材第一」という経営哲学があり、惜しみなく教育に対する時間とお金と考え方を投資をしています。その結果が世界に誇れる企業となっています。これは企業のみならず、国においても同様です。

 イギリスのブレア首相が、1997年の就任演説で「わが政府の3つの最重要課題は何か。それは、教育、教育、そして、教育だ」とし、この教育改革を実施し、教師の給与を年5%ずつ上げ、より優秀な人材を集めました。教育とはまさに人材育成に他なりません。何故なら教育、人材育成の不足は国力の低下につながるからです。

 教育とは英語で「エデュケーション」といい、その語源は引き出すという意味です。つまり、教育とは1人1人の個性を引き出すこと。その個性を見抜くには、自らが学び複眼的思考を持たなければ、見出すこと、気付くことができません。

 人生はどんなに回り道をしても無駄にはならないということです。むしろ近道です。是非とも時間をかけて、じっくりと「自分探し」をし「好きで好きでたまらない仕事」を見つけていただきたいと思います。皆様は国力をも左右する人材を育成するという重要な役割と使命をもっているということなのです。ですからどうか子供たちに多くの夢を与えていただきたいと思います。

 私も微力ではありますが、今後とも様々な活動を通じ、日本の教育改革、リーダー育成に尽力してまいりたいと思いますので、本日お集まりの皆さんには、素晴らしい人材を育てていただきたいと思います。皆さんのご活躍に期待いたしております。

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