執筆・講演

東広島法人会
2010年5月18日

揺れても沈まず
― ベンチャー精神で新しい価値の創造を −

1. 日本経済の課題

 「内臓疾患」と「うつ病」状態である日本。経済、産業をグローバルな視点で比較してみますと、3つのことが言えるでしょう。

① 製造業は強いが非製造業が極めて弱い。生産性が低い。
② EUや新興国に比べ、グローバル化の立ち遅れが目立つ
③ 人材が生かされていない

 といった課題とともに、日本は世界でも例をみない、超高齢化社会と人口減少が目前に迫っています。これは世界の中で日本が初めて経験する社会です。したがって、世界は日本の行動に注目しています。「日本はこの状況にどう対応するのだろうか。うまい解決はあるのであろうか。」と興味津々です。
 前東京大学の総長 小宮山宏さんは、『課題先進国』という本を出されましたが、私は「課題大国」と言いたい。

◆ サービスサイエンス
 このような内包した問題を解決すべく、来月6月に政府の成長戦略が策定され、  発表される予定になっていますが、経団連でも政府に対して財政の持続可能性の確保とともに成長戦略の推進を提言しています。政府には世界の動向を分析して、現在の日本にピッタリと当てはまるビジネスモデルを示すこと。そして発展途上国とコスト面で競争できない業種には、イノベーションを発揮させるような政策としていただきたいと思っております。JRの交通網など、ソフト・ハードで世界NO1であることはたくさんあると思われます。

 さて、冒頭で今回の政策転換により知的労働時代の到来であると申しあげましたが、産業構造の変化とは、従来の第一次産業から第二次産業、そして第三次産業といった枠組みを超え、また、各産業におけるサービスに付加価値をつけること(ハードからソフト)にシフトすることです。今や第三の開国の時代であり、現在は高度情報化社会でもあります。
 具体的にご紹介しますと野菜や果物、漁業に付加価値をつける。製造業の生産にITの技術でサービスを付けた日本の高いレベルの先端技術を生かした産業を世界に先駆けて開発し、国内の優秀な民族の能力を使って世界に売り出すというような、高付加価値を目指した日本の生産活動です。

 現在こうした活動を推し進めるため、サービスの価値について、顧客を科学的に分析、研究することでサービスの価値を高めることを「サービスサイエンス」といい、2004年米国では体系化され「サービス科学」を学問として成立させました。

 ここでいうサービスとは、従来の第3次産業のみを指すのではなく、第1次、第2次産業を含めた経済全体をカバーします。これまでサービスとは特に日本においては「勘と経験」頼りで「結果オーライ」の世界。そのため技術の伝承・発展も個人的努力に任されるところが多く、科学的アプローチはなかった。しかし、産業構造がサービス産業にシフトしている現代においては、サービスの生産性とイノベーションを科学的に研究し、新しい顧客管理、顧客志向サービス・イノベーションを促進することで新しい価値の創造を可能としています。
 この理論の発展により広くいきわたることで、日本が抱えている課題を解決するとともに、マンガ、アニメのように日本のソフトとして新たな産業として生まれるのではないでしょうか。


2.日本の底力はものづくりにある

 

◆ 人材活用と育成
 日本人の能力は世界のどの民族と比べても格段と高いのですが、これを生かす経済を考えなければならない。それが日本に欠けている。人材が生かされていないと思います。サービスサイエンスを実施するにも、創造力を充分発揮して付加価値の高い仕事をしなくてはならないのです。そうしなければ世界に遅れてしまうのです。
 それには、まず、義務教育のシステムから変えるべきです。私はこうした問題を解決するため、経済産業省からの依頼で小学校、中学校を対象としたキャリア教育を支援しています。

 私はアフラックの経営以外にも、(財)「国際科学振興財団」の会長として「技術立国日本」を応援し、日本で、新規事業の創出を支援しております。また、長年「ニュービジネス協議会」の副会長として、数多くのベンチャー起業のお手伝いをしてまいりました。さらに、日本の50年後、100年後を見渡し、生命という人間の原点に立ち返って、持続型の文明の構築と、それをささえる経済活動、すなわち「ものづくり」を支援するためのNPO法人「ものづくり生命文明機構」を創設し、副理事長と分科会である企業活性化協議会会長を務めております。
 こうした活動を通じて私は、日本の底力はものづくりにあると確信しています。ものづくりとはこれまでの実績であり、企業文化と同様、コピーができないものです。韓国、中国、インドなどの 台頭もありますが、技術の蓄積は超えられません。日本の技術をコピーするだけでは太刀打ちできないからです。
 その土台を踏まえ、得意とするIT技術を加えて高付加価値のものづくりに向かうべきです。

 欧米と比べて日本がものづくりが得意なのは、日々の努力もありますが、几帳面であったり根気強いといった国民性や精神、文化が体内に流れている。DNAとしてあるのです。そして多くの資源がまだ眠っているのです。
 日本唯一の資源は「知の力」です。ですから知的水準を上げ、ものづくりに励み生活基盤の強化にもっと強力に取り組むべきです。


3.まとめ

 

◆ ボローニャに学ぶ
 現政権の混乱、リーダーの衰退。日本は「うつ病」と申しあげましたが、いつの時代も栄枯盛衰は世の常でありますから。夢や希望を失ってはなりません。
 5年前、イタリアのボローニャを訪問しました。ボローニャは大学から始まり都市が誕生し「知のボローニャ」といわれています。なぜなら、ヨーロッパ初の大学(1088年)が誕生し、ヨーロッパ中から叡智と学生を集め学問が芽生え発展した。高品質の絹の生産により中世絹産業は全盛を極めるとともに、あらゆる人種、階層の人々が集まり協力し合い、自立した都市を造った。
 18世紀に崩壊したが、1964年にコミュニティに密着した地区行政としての「地区住民評議会」がはじまり、全国にこの制度が広がった。そして産業・文化・福祉の領域で住民の創造力を引き出す社会システムとしての「創造都市」。経済の発展と社会・文化の発展を同調させる典型的なモデルとして賞賛されています。
 こうした現在における発展は、中世に自治が発展し、市民文化が開花した歴史をもとにしていることにあります。

「経済大国」ともてはやされながら、あまりに殺伐とした今日の日本。「何か間違っている」と誰しもが漠然と思うが、その解決の糸口さえ見つからない。しかも、目先の利益ばかり追求してきた。それに比べ、ボローニャの人々の希望に溢れた表情や豊かな暮らし振りは一体どこから来るのか。
 行政改革、地方分権、中小企業再生、教育、介護などいま日本が抱えている様々な難問を市民自らが気づき、イタリアの中核都市ボローニャは見事に解決しているのです。
 東広島市は学園都市ですから、参考にしていただき挑戦されてはと思い紹介させていただきました。

 こうした姿を目の当たりにしますと、ある言葉が思い浮かびます。私が大学を卒業し、米国に留学していた時、ジョンF.ケネディが大統領就任式で語った言葉がまだ若かった私の頭から体、全身に刷り込まれています。
 「国民が国に何かをしてもらえるか望むのではなく、自分たちが国に何が貢献できるかを考える国民になってもらいたい。また、そうならなければアメリカは良くならない」全く、現在の日本が何をなすべきであるかにピッタリ当てはまるからです。

 ユートピアのような街。私たちが諦めなければそんな街を創ることは可能なのだと私は気づいたのです。
 日本も遅まきながら地方自治体や民間が独自に歩みはじめた感があります。後はいかに民意を政・官が汲み上げ「協働」するシステムを作るかです。

 痛みを伴う改革といいながら、その改革案を痛みを知らない政治家や役人が作っているうちは、日本は救われない。国民の生活を左右する大事な法案の立案施行責任者の卵(広大の学生たち)に、「再生のための具体案を立てよ」という課題とともに倒産寸前の小さな町工場や商店でのインターンシップを義務付けてはどうでしょうか。
 産学が共同し新たなビジネスや文化を創造する。私は大学生を対象としたキャンバス・ベンチャー・グランプリの仕事にも関係していますので、新しい感性と柔軟な発想の大学生のアイデアは大いに期待がもてます。

 

◆ 人材育成
 これまでご紹介させていただいたように「知」への転換には教育が欠かせません。それには国レベル、また民間レベルにおいての推進が不可欠です。平成22年度の予算においてこの面は随分努力の成果が認められ嬉しく思っております。
 私自身は、特に次世代を担う若者のリーダー養成に注力いたしております。

◆ リーダーシップ
 私が考える日本らしいリーダーシップとは、他の国が自ら日本の社会を見習い、模範にしようと思うようなそんなリーダーシップです。

 1924年、中国の政治家であり革命家であった孫文は、日本の神戸において「大アジア主義」を唱える講演で、「東方の文化は王道であり、西方の文化は覇道であり、王道は仁義道徳を主張するものであり、覇道は功利強権を主張するもの。仁義道徳は正義合理によって人を感化するものであり、功利強権は洋銃大砲を以って人を圧迫するもの」と述べました。

 そして日本人に対して「貴方がた、日本民族は既に一面欧米の覇道文化を取り入れると共に、他面アジアの王道文化の本質を持って居るのであります。
今後日本が世界文化の前途に対し、西洋覇道の鷹犬となるか、或いは西洋王道の干城となるか。それは日本国民の詳密な考塾と慎重な採択にかかるものであります」と訴えました。日本に西洋的「覇道」を取るのかの選択を迫ったのです。
 その後、みなさんご存知のように、日本は帝国主義と呼ばれる「覇道」の道を選び、そして敗戦の憂き目を見ました。こうした歴史を見ましても、いま再び世界の「王道のリーダーシップ」しか日本がとる道はありません。

最後に恵まれた東広島市について
 私は今から50年ほど前、2年間この土地で学びました。当時は農村地帯でしたが、現在は立派な都市となっている。一言で申せば学園都市です。広島大学、近畿大学工学部、広島国際大学と 産・官・学でボローニャのごとく恵まれた学園都市として新しいビジネス、文化を生み出していただきたいと思います。
 栄枯盛衰は世の常、50年先、100年先をしっかり見据えて、教育、人づくりに努力していただきいと思います。
 企業が生み出す「文化」を経済改善型の自主再建とすべきです。実務に精通した各分野の専門家が集まりチームを作る。多種多様な人材が集められる東広島市。その後に東広島市は産官学を大いに盛り上げ、「知の力」で付加価値の高い産業を誕生させ育て上げて欲しいと思います。

 それには、どんな困難な業況に遭遇し、揺らいだとしても、常にベンチャー精神で乗り切っていただきたいのです。
 企業は商品ではなく、文化の集合体。東広島市に深く根付いている風土を尊重して新しい東広島市を創ろうではありませんか。

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