執筆・講演

淑徳大学・板橋区教育委員会協会大学公開講座
わたしの経営観
2010年5月20日

大竹流経営哲学

1. リーダー不在の日本

 さて、このような日本の実情から、今必要とされているもの、求められているのは国の政治、経済での強いリーダーシップではないかと思います。
 私は米国企業で長年経営を行ってきており、経団連、経済同友会、商工会議所等に所属し、多くの日本の企業のトップと接し感じたことは、リーダーの資質を持つ人が少ないということです。
 こうした危機感を抱き、11年前『リーダー改造論 21世紀型リーダーシップとは』を上梓させていただくとともに、前富士ゼロックス会長の小林陽太郎さんと日本アスペン研究所を設立しリーダー養成を図っております。
 アスペン研究所とは教養、リベラルアーツを重視し、研究・研修を実施している世界的に有名な米国の教育機関です。米国のコロラド州のアスペンでセミナーが開催されている ため、そう呼ばれています。
 私自身、79年にこのセミナーに参加し大変驚きました。なぜなら、世界中のビジネスマン、政治家、官僚、学者といったあらゆる分野のリーダーたちが集まり、古今東西の古典をはじめとする文献を読み、それについて意見を戦わすのです。ビジネス研修ではない、いわゆる人間力を養っているのです。この重要性を知り小林陽太郎さんとともに日本アスペン研究所を設立し、日本のリーダーを教育現場に提供しています。
 また、最近では、ISLの野田理事長に依頼され、こちらでも社会人のリーダー養成に力を尽くしております。
 そしてここ、淑徳大学では(ご案内にありますように)4年前から社会人を対象とした「21世紀を担うリーダー養成講座」グローバルマインドとリーダーシップ の講座主幹として講座を持たせていただいております。本年度も4月から10数名が講座に参加されております。

 何故、私がこのように、リーダー養成に力を尽くしてきたかと申しますと、これまでの日本は、特に戦後から今日までリーダー養成に力を注がなかったことにあります。確かに戦後の右肩上がりの経済成長の中では、集団主義、護送船団方式、ボトムアップが通用し、リーダーは必要がなかった。また、必要とされなかった。しかし、バブルが崩壊し、さらにはリーマン・ショックといった100年に一度といわれる経済危機に直面し、こうした常識が通用しなくなり、真のリーダーが求められているのです。

2.大竹流経営哲学

 経営には哲学が必要です。そして経営には理念、思想、哲学、宗教に似たものをもち共有することが重要です。何故なら会社は人と組織で成り立っているので人間学も不可欠となるからです。これは日本も欧米も無関係であり、どこの国でも理念、哲学は共通なものです。
 共有することについては後ほど、全員参加型経営、社員の総和の部分でふれさせていただきます。
 経営の神様と言われる松下幸之助氏は、「経営者は経営哲学を持たなければならない。また宗教心を持たないと本当の経営はできない」といっておられました。私もまったく同感です。アシックスの鬼塚氏、経団連会長を務められた土光敏夫氏、花王の丸田芳郎氏、京セラの稲盛和夫氏等々、日本を代表する名だたる経営者は皆さん宗教心をお持ちでした。自己中心的(利己)的ではなく利他を重視する精神であります。
 そして宗教心を広く、企業経営に発揮され実現された経営者は決して少なくありません。
私も例外でなく、キリスト教の精神が行動の原動力となっています。そのためアソシエイツの皆さんを「愛の伝道師」として位置付けました。

 経営哲学に基づいて日々実践し、さらには先人などの思想を学び、落とし込むことが大切です。私は35歳でアフラックを創業、副社長を11年間務め、その後46歳から社長を9年間務めました。以前、米国の「フォーチュン」誌に次のような記事が載りました。「今後最も尊敬すべき会社の基準」というものです。ご紹介させていただきますと、第一位が「経営の質」、第二位「製品、サービスの質」、第三位「革新性」、第四位「長期的な投資価値」、第五位「財政的健全性」、」第六位「優秀な人材を吸収し、教育し、維持する力」、第七位「地域社会の環境への貢献」、第八位「会社資産の賢明な使用」であります。日本の企業にとっては、いささか耳の痛い「基準」でありますが、これらの基準はグローバルスタンダード、「国際基準」として求められているものであります。
 そして、私はハイブリット(混血)経営を実践して参りました。国際競争力のある高付加価値経営を行うにはそれに見合う人材が必要であります。優秀な人材、そうした外的資源を内的資源として取り込むことができなければ厳しい競争に勝ち続けることはできないのです。

そこで、私が経営を担っていた間、私が貫いた経営哲学は次の4つです。

① 卓越した何かを持つ
② 噂に惑わされず、事実のみを信じる。 真実を見極める目が必要。
③ 失敗例から学ぶ − 失敗を恐れない。
④ 人を選ぶ  ― 企業は人なり

私はいつも瞑想をくり返しています。思考の停止というものがとても重要で、その域に到達できないと欲や恐れや怒りや不安といった感情に邪魔されて「的確な判断」ができないからです。
眠る前に30分程度「感謝」「反省」「明日の目標」を静かに想います。
①意識、②停止、③平静、④静寂、⑤安穏、⑥熟考、⑦到達の7つの空間を廻ります。 思考を停止しない限り本質的な疑問は浮かんでこないのです。(思考を)停止しなければ目的や目標は過去に引きずられます。思考を停止すると、心は穏やかになり、静寂に至ります。心に平和が訪れ、真の思考が訪れます。真の思考が訪れたとき、初めて自らが達成すべき目標が達成できるようになります。まさに「自己の内なる他者」ということです。


3.企業文化の形成 −語り継がれる会社に

 

◆ 自律分散型(体制)
 ではどのように私がリーダーシップをもって、アフラックの企業文化を築いてきたかと申しますと、全員参加型経営を目指しました。皆さんのお手元の資料を見てください。何を想像されますか。さるが自由奔放に楽しそうにしている。これは実はさるではなくて人間なのです。
 自律分散型の体制。つまり、全社員が自分で考えるということ。目標を与えられたら、それをどう達成するか。活路を自分で考える。その結果に対して自分が本当にできたか、できないか。自分なりに判断できる人間にしないと自律分散型にはならない。

 自律分散型の体制を創るには、リーダーが将来のビジョンを構築し、経営理念を明確化することが必要であり、それがリーダーの重要な役割です。そして戦略の意思決定をすることで、社員は企業のミッション、明確な自分のミッションを持った社員が集まり強い組織になるのです。
 こうした組織を創るためには、あれこれ細かく指示しない。しかし、社員にビジョン、目標をはっきり示す。ビジョン、目標が明確なら、1割の指示で9割は自分で考えて行動できるはずです。指示待ち人間の増加は組織の硬直化につながります。(責任と権限についての意識も曖昧になる。)これからはカリスマのようなリーダーではなく、集まっている人々の中からリーダーが誕生します。

 なぜ、そうしたことが必要かと申しますと、社員の創造力資料を見ていただくと、お分かりのように、社員全員が昨年と同じことをしたのでは、昨年との創造力の差はゼロであり、企業は成長できません。社員全員が10%だけ創造力を発揮すると、昨年との創造力の差は1.77倍となり、企業は成長します。しかし、たったひとりでも社員がやる気をなくし、創造力が50%に減少すると、企業の成長は行き詰まります。

◆ 全員参加型経営 −PIAS SHOC 25周年に実施
 ですから私は経営者・リーダーとして、企業のビジョン、目標を明確に、社員にはそれぞれのビジョン、目標を持つように奨励してきたつもりです。
リーダーがビジョンを示すということは、自分の思いを的確に伝えることに他なりません。このように私の経営哲学と指導原理が社員の心の深層にある倫理観と使命感を引き出し、独得の企業理念と風土を形成してきました。
  では、実際にどのような手法を取り入れたかと申しますと、創業25周年を記念して、PIAS SHOCというプロジェクトを実施しました。なぜ、このようなことを全社員を巻き込んで行ったかと申しますと、アフラックを創業した時、まだ生まれていなかった人が、新入社員として入ってくる。すると会社の理念を理解してもらうことは、だんだん難しくなります。また、会社の成功に不可欠な全社員の一体感も、維持することが困難になります。
 そこで、企業の理念と社員の"自分たちの大切にしたい価値"をうまくミックスして、全社員で約束し合おうということになりました。それが、PIAS SHOCというプロジェクトです。全員にアンケートをとり、一人一人に大切にしてもらう価値基準を書いてもらいました。これを、アフラックの企業理念と組み合わせて、社員の日常の基本行動のレベルで理解してもらおうという狙いです。このおかげで、社員は、会社のビジョン・目標をよく理解することができました。

 全員参加型の経営において、この社員の創造力を大切にすることと、会社のビジョン、目標を社員一人ひとりに浸透させることは車の両輪です。どちらか一つがかけても車同様、進みません。
 トップの目標を明確にした上で、その達成手段をそれぞれに考えさせることが、全社員が企業の構造改革の仕掛け人となるということです。企業というのは、全社員のエネルギーの総和ですから、全社員が同じ方向に向かって全力を出している会社がよい会社です。

◆コミュニケーション
 自律分散型の体制へと変えていくためにはどのようにすればいいのでしょうか。それには、自発的な行動を促し、職制に即した権限を委譲する。責任体制の強化、組織の簡素化と迅速な意思決定が必要となります。
 そして一番心がけなければならないのは、全社員の心が通じあうこということ。「通心」(つうじる・こころ)という字を書いてみてください。 心が通じあわないと失敗が多くなります。思い込みはコミュニケーション不足から出ることが多い。最近の若者は知識は十分持っていてもコミュニケーションができない。心を通じ合わせなくては仕事にならないのです。
 そこでコミュニケーションをとる上での参考となるポイントは
① インフォメーション(正確な情報)
② 双方向
③ コラボレーション(協働・協力しあいながら共にはたらく)
④ ファシリテーション(促進すること)
です。この要素を理解し、組み立て、活用していただけければと思います。

5.まとめ ― リーダー

 最後にこのメッセージをお伝えして、私のスピーチを終わりにさせていただきたいと思います。
 一つはケネディ大統領の宇宙開発に関する明確なメッセージで、次のように言っています。
 「1960年代の終わりまでに、アメリカは人間を月に着陸させ、安全に地球に帰還させるという目標を達成させるであろう。」トップはこのような明確な目標を打ち出す必要があるのです。
 「国民が国に何をしてもらえるか望むだけでなく、自分たちが国に何で貢献できるかを考える国民になってもらいたい。また、そうならなければアメリカは良くならない」

 何故このようなメッセージを皆さんにお贈りしたかと申しますと、私が大学を卒業し、米国に留学していた時、ジョンF.ケネディが大統領就任式で語った言葉で、まだ若かった私の頭から体全体に刷り込まれたからです。
 閉塞感に満ちた日本において、現在の日本が何をなすべきであるかにピッタリ当てはまるからです。

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