執筆・講演

ひろぎん お取引先経営者様との集い 2010年7月26日

「大竹流経営哲学」

結論

 本日の結論から申しあげますと、リーダー・トップとは「リスクの請負人」であり「孤独」であるということです。昨年の政権交代、今回の参議院選挙と、政治が不安定な状況にあり、経済も落ち着かないのが現状です。こうした状況であるからこそ、真のリーダーが求められるのだと思います。

 組織のトップは孤独です。日々様々な判断を迫られ、深く悩むこともあり、誰にも相談できないこともあります。だから眠れない日が続くのは当たり前です。そんなとき、人によっていろいろな解決の仕方があると思います。禅寺に篭る人もいるかもしれません。そんなとき、迷ったとき、私は原点に返ります。

 私はいつも瞑想をくり返しています。思考の停止というものがとても重要で、その域に到達できないと欲や恐れや怒りや不安といった感情に邪魔されて「的確な判断」ができないからです。
 眠る前に30分程度「感謝」「反省」「明日の目標」を静かに想います。
 ①意識、②停止、③平静、④静寂、⑤安穏、⑥熟考、⑦到達の7つの空間を廻ります。 思考を停止しない限り本質的な疑問は浮かんでこないのです。
 (思考を)停止しなければ目的や目標は過去に引きずられます。思考を停止すると、心は穏やかになり、静寂に至ります。心に平和が訪れ、真の思考が訪れます。真の思考が訪れたとき、初めて自らが達成すべき目標が達成できるようになります。まさに「自己の内なる他者」ということです。

1.大竹流経営哲学

 こうした日本の状況においてどうように経営を行っていけばいいのか。皆さん不安になられているのではないでしょうか。

 経営とは「心」。経済学とは「集団心理学」経営には哲学が必要です。そして経営には理念、思想、哲学、宗教に似たものを持ち、共有することが重要です。何故なら会社は人と組織で成り立っているので「人間学、人間を磨く、尊敬する経営者、人にならなければならない」というのが私の考えでもあります。これは日本も欧米も無関係であり、どこの国でも理念、哲学は共通なものです。
 そこで「哲学する」ことが重要になってくるのです。深く、深く物を考える習慣を身につけていただきたい。そうすることで、人生がものすごく豊かになる。

 経営の神様と言われる松下幸之助氏は、「経営者は経営哲学を持たなければならない。また宗教心を持たないと本当の経営はできない」といっておられました。私もまったく同感です。アシックスの鬼塚氏、経団連会長を務められた土光敏夫氏、花王の丸田芳郎氏、京セラの稲盛和夫氏等々、日本を代表する名だたる経営者は皆さん宗教心をお持ちでした。自己中心的(利己)的ではなく利他を重視する精神であります。

 こうした想いから、この度、革新的なアプローチで経済や社会の課題を解決し、新しい資本主義の姿を先取りし実現する社会イノベーターを養成する公志園(こうしえん)を実行委員の一人として立ち上げました。

 宗教心を広く、企業経営に発揮され実現された経営者は決して少なくありません。私も例外でなく、キリスト教の精神が行動の原動力となっています。そのためアソシエイツ(代理店の皆さんを仲間として、そう呼んでおります)の皆さんを「愛の伝道師」として位置付けました。

 私はいつも企業経営というのは「心」。経済学は心理学、哲学、宗教そのものだと思っております。まして、これからの企業はそうした隣接学問を取り入れなければ成り立ちません。
 今は人格(人間性)よりも頭脳を重要視する。これでは経営は大失敗します。頭脳だけで人格(人間性)がない人間がどうして人を導けるのでしょうか。結局彼らは自己中心的、利己的な経営になります。うちの会社だけが幸せになればいいと。そうなりかねない。
 経営哲学に基づいて日々実践し、さらには先人などの思想を学び、落とし込むことが大切です。

2.経営者として

 アフラック創業当時、35歳の若さでしたから社会的信用もなく、金融機関のトップにあうこともできませんでした。そのため社長は元大蔵省官僚、副社長は元厚生省の方を迎え、そして私の3人経営いたしておりした。大蔵省の人も、厚生省の人もお役人でしたので稼ぐことはできません、頭を下げることもままならない。ですから私は1人で、皆さんの給料を稼ぎ出すしかなかったのです。
 土日、祭日は全然ない。朝の6時に出社して、夜の12時まで猛烈に働きました。私は社員には働くこと、背中を見せるしかなかった。言葉は要らない。私が猛烈に働いていれば。みんなも仕方なく働く。私の秘書も7時か8時には必ず出社するようになるんです。秘書には甚だ申しわけなかったんですけども。朝早くから夜遅くまで。
  とにかくそういう形で求心力になった。もう言葉は要らないですね、本気になって、死に物狂いで働けば、みんなついてくる。お客様にも伝わりますから、自然と応援してくれるようになる。あんなに苦労しているんだから、手伝ってやろうということになり、同情を買っているのかもしれませんけれども、多くの皆さんが、ほんとうに協力してくださいました。

 そして社長となりましても、ある意味恨まれ、夜道を1人で歩けないくらい危険な目に遭う。ポストに物騒な書置きを残していく人もいる。それほど命をかけ、凄惨な、ものすごい戦いをしておりました。

◆ 破壊と創造を繰り返す

 会社が順調にいき出すと、みんな満足して眠りについてしまいます。居眠りを始める。そうしたときはアグレッシブな改革をすることで揺さぶる。法律を犯すとかではなく、そうすると、みんながまた目を覚まして我に返るのです。
 不安定な環境をつくるというのは、トップ1人で努力しても難しい。社員はついてこない。ではどうするか。組織をがらがら、人事をがらがら変えるしかない。何故なら同じ人間に意識改革は絶対できないからです。
 世界銀行の方からも伺いましたが、世界銀行も、不安定な状況を常につくり出すといっています。私は正しいと思います。

 破壊と創造を繰り返すには、自分自身が、自分に対して言い聞かせなければならない。自分だってものすごく葛藤があり眠れない夜がずっと続く。だからお酒を飲む。しかしお酒を飲んでいても、すごい苦しみで、今思い出すだけでもぞっとします。

 経営というのは、常に不安定な環境をつくり出すことなんです。安定したらだめです。安定したら、会社は潰れます。社員から恨まれ、心を鬼にして目的を達成させなければならないのです。トップというのは、そういう覚悟でやらないとだめだと思います。
 事業というのはそういうものだと思います。平たんな道のりを歩けない。日本を代表する企業でもほんとうにいい年は、これまでの会社の歴史の中で数年しかなかったと。地獄ばかり見たと。それが日本を代表する企業なんです。

 アフラックはアメリカの会社だから、日本のことはわからないだろうと思われがちです。今日ここにお集まりの多くの皆様も、そのように思われているのではないかと思いますが、実はこうした経験から、皆様がご苦労されておりますこと、また悩んでおりますことはまさに自分のことのように共感でき、理解できますし、経営の本質に日本も米国も違いはないのです。

 このようなことが私は必要なことではないかと、経験上そう思っております。ずいぶん時間がかかりましたが、結局私は「当たり前のことを当たり前にやろう」ということに気づいたわけです。

3.企業は永遠

 私は2003年から、現在の最高顧問の職にあります。35歳でアフラックを創業し副社長を11年間務め、46歳から社長を9年間務めました。社長を退任するとき、まだ早い、なぜ辞めるのか、といわれまた。しかし、企業は永遠であり続けなければならなく、そのためにリミットレスリーダーシップ(限界がない)が必要なのです。そして、その一番重要なことであり、難しいことは、一番いいときに、タイミングよく次の人にバトンタッチすることです。これがいかに難しいことであるか。

 私は、アフラックを設立した時、「企業は永遠に続かなければいけない」という意識をもちました。それは、「企業は、誰のものか?」と質問されたら、もちろん、自分のものではありません。「それは、生活者のものだからです。」こういう気持ちから、「企業は永遠であるべき」という哲学を持つようになりました。経営でもそうですが、ついついお客様をないがしろにし、ごまかし「偽・嘘・見栄」が蔓延し偽装列島となってしまっているのです。そして生活者を欺き大きな経済事件が起こり、その結果、その企業はどうなるか皆さんよくご存知のことだと思います。

 さらに、企業は永遠でなければならないという意識を強くさせたのが、私が、社長に就任する一ヶ月前、アメリカ本社の創業者に訊ねられたことでした。「社長として大切な仕事は何だと思う?」と質問され、私は「利益を出して本社に送金すること」としか答えられませんでした。しかし、答えは何だったと思いますか?お分かりの方いらっしゃいますか?答えは「次のリーダーを選ぶこと」でした。これには本当に驚きました。
 リーダーの仕事は、次のリーダーを選ぶことなのです。このことは、アフラックも何人かの社長を迎えたことで実感しております。人間は、いずれ死を迎えますが、企業は、衰退することは許されません。お手元の資料にもありますように企業も人間と同じように企業の一生というものがあります。「誕生期」「少年期」「青年期」「成熟期」「衰退期」です。しかし人間と異なるのは先ほども申しあげましたが人間は必ず「死」を迎えますが企業は衰退することは許されないのです。滅びさせてはいけないという一心で、企業の経営者は、大きな努力をしてきたわけです。
   つまりリーダーには、企業を永遠に存在させる責任がある。そういう責任意識をもたないリーダーは、リーダーとは言えないのです。なぜかと申しますと、リーダーは「リスクの請負人」だからです。

 私は36年前、アフラックをゼロから立ち上げました。企業経営ですから、いろいろな苦労もあり、戦略も立ててまいりましたが、何よりもリーダーとして大切なことはぶれない決断をすること。その決断を下すために常に学ぶことが重要であると思います。そして「当たり前のことを当たり前にやる」ことではないでしょうか。
 皆さんがリーダーとしてご活躍いただき、ここ、福山が活気のある地域として、日本を牽引していただけることを期待いたしております。

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