執筆・講演

飛騨市民講演会 2010年8月1日

「活力ある豊かな地域の創生を目指して」− 新しい価値の創造 −

 先月、政権交代後の初めての国政選挙、参議院議員選挙が行なわれたわけですが、歴史的な政権交代を経て、今、日本は変革の途上にあります。混沌とした変局の時で政治は全く予測困難です。今後皆様方が国を頼りにせず、活力溢れるふるさとを創生される上で何かお役に立つこと、私なりに考えていることをお話させていただければと思います。

 昨年の政権交代以降、政局が注目を浴び、その後首相の交代、参議院選挙とめまぐるしく状況が動いておりますが、日本経済、そして私たちの仕事や生活がどのように変わっていくのか不安に思っておられる方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。なぜなら、政治と経済は切り離すことができない、不可分一体であるべきなのに、その一体感が欠落しているからであります。
 本日は、今後の産業構造はどのように変化するのか、そしてこの現状の中でいかに新しい未来、活力ある地域、ふるさとを築いていくのか、私なりの考えをお話しさせていただければと存じます。

1.日本経済の課題

 「内臓疾患」と「うつ病」状態である日本でありますが、経済、産業をグローバルな視点で比較してみますと、3つのことが言えるでしょう。
① 製造業は強いが非製造業が極めて弱い。生産性が低い。
② EUや新興国に比べ、グローバル化の立ち遅れが目立つ
③ 人材が生かされていない
といった課題とともに、日本は世界でも例をみない、超高齢化社会と人口減少が目前に迫っています。これは世界の中で日本が初めて経験する大きな脅威です。したがって、世界は日本の行動に注目しています。「日本はこの状況にどう対応するのだろうか。うまい解決はあるのであろうか。」と興味津々です。
 東京大学の前総長である小宮山宏さんは、『課題先進国』という本を出されましたが、私はむしろ「課題大国」と申しあげたいと思います。

サービスサイエンス

 このような内包した問題を解決すべく、政府では新成長戦略を策定し、閣議決定されましたが、2020年度までの平均で「名目3%、実質2%を上回る」という高い経済成長の目標を掲げました。政府には世界の動向を分析して現在の日本にピッタリと当てはまるビジネスモデルを示すこと、そして発展途上国とコスト争いできない業種には、イノベーションを発揮させるような政策を示していただきたいと思っております。JRの交通網など、ソフト・ハードで世界No.1であることはたくさんあると思われます。
 今後、戦略が具体化されるにつれ、厳しい財政事情でどのようにやりくりをしていくのかが大きな課題でしょう。 

 冒頭で、産業構造をどのように変化させるかに少し触れましたが、では現在どのような産業構造の変化が生まれているのでしょうか。従来の第一次産業から第二次産業、そして第三次産業といった枠組みを超え、また、各産業におけるサービスに付加価値をつけること(ハードからソフト)にシフトしているということが重要なポイントになると思います。今や第三の開国の時代であり、加えて現在は高度情報化社会でもあります。

 現在こうした活動を推し進めるため、サービスの価値について、顧客を科学的に分析、研究することが進んでいます。サービスの価値を高めることを「サービスサイエンス」といい、2004年米国では体系化され「サービス科学」を学問として成立させました。日本では千葉商科大学がサービス創造学部をスタートさせています。

 ここ飛騨市でもこういった面での人材育成がとても大切です。これでV字回復すべきです。ここでいうサービスとは、従来の第3次産業のみを指すのではなく、第1次、第2次産業を含めた経済全体をカバーします。これまでサービスとは特に日本においては「勘と経験」頼りで「結果オーライ」の世界でした。そのため技術の伝承・発展も個人的努力に任されるところが多く、科学的アプローチはありませんでした。しかし、産業構造がサービス産業にシフトしている現代においては、サービスの生産性とイノベーション、変革、革新とでも言いましょうか、を科学的に研究し、新しい顧客管理、顧客志向サービス・イノベーションを促進することで新しい価値の創造を可能としています。
 自分たちの企業、仕事の目的を明確にすれば、それに影響を受ける情報は何点かで済むのです。絶対に必要とする情報を1点でもいいから分析しておけば、世の中の変化が掴めると思います。情報量の多さ、多様さに困惑したり、惑わされることがなくなります。つまり、本質を見極めることが大切だということです。

2.地域の自立

 今から何年か前に、地域起こしの専門家の方とお話をして、地域が自立して繁栄を続けるにはいくつか条件がある、ということに話が及びました。

(1) 第一の条件:リミットレス・リーダーシップ
 存続させていくためには次のリーダーを育成するシステム、次世代が育つ構造を作ることが維持、継続させる第一の条件になります。そうしなければいくら素晴らしい事業を、産業を興したとしても継承し発展させることが難しいからです。先ほど申しあげましたように、一過性の町興しでは続いていかないのです。

(2) 第二の条件:ブランディング、風土創り
 次の条件は、ブランディング、つまり地域の皆様方のブランド、DNAを引き継いでいくことが他に真似のできない独自路線、特化戦略となります。その地域独自の風土が形成され存在意義も生まれてくるのです。

(3) 第三の条件:全員参加、参加したくなる楽しいシステムづくり
 3番目の条件は、地域住民を巻き込む参加型のシステムを作ることです。
 青森ではりんごの収穫をするのに、アルバイトを雇うと1日5000円かかるそうです。その当時5000円ですから今はもっと高くなっているかもしれません。そこで"りんご早落としコンテスト"を開催したそうです。すると日当の必要もなくりんごの収穫ができ、参加した人からは"次はいつ開催するのか"という問い合わせが来るほど楽しんでもらえたというのです。このようにアイディアひとつで住民参加型の活動はできるのです。成功の積み重ねが更なる成功を生み、成長へと繋がります。

(4) 第四の条件:繁栄を維持継続する糸口は現場にある(現場知)
 繁栄を維持継続する糸口は現場にあります。現場知ということです。
 北海道上川郡鷹栖町というところ、皆様ご存知ですか、「オオカミの桃」というのをお聞きになった方いらっしゃいますか?ご紹介するのは特産のトマトジュースで町興しに成功した例です。

 役場の若い栄養士さんが町内を巡回していたときに、どこの農家でもトマトを作っていることに目を付け、「町の予算で町内会館に小規模なトマトジュース工場を作り、年間を通じて畑作業をする時やスポーツをする時に飲む習慣をつけたら・・・」という提案をしたそうです。町では早速この若い栄養士さんの提案を採用することにし、農家の主婦が自家製のトマトを持ち寄り、衛生指導や製造指導を役場の人から受け、ジュースを作ったのです。その味のよさが評判になり全国から注文が殺到しているそうで、今では町の基幹産業となっています。

 成功の要因は現場の声を聞き、実践していることにあります。町の皆が求めていること、町の人のために町の人が喜ぶことを見出すことが肝心です。町の住民の方は自分たちのための事業であれば、生き生きと積極的に参加します。現場からのアイディアから新しい産業が生まれ、安定した基幹産業になる、いかに住民の気持ちを大切にすることが大事かということではないでしょうか。

まとめ

 1970年代から「地方の時代」が叫ばれて久しいのですが、これからがまさにその真価が問われる時代になってきました。存在感を示す改革派首長もたくさん出てきました。国への依存体質から一刻も早く脱却し、地域自体が自ら磁力を発生するようになって初めて地方の自立につながっていくのではないでしょうか。磁力(マグネット)を持つことが絶対不可欠な条件だと思います。

 「自立」とは、いうまでもなく自分の力で立ち上がることです。また、別の意味の「自律」には、強い信念と変化に対応する能力が欠かせません。次世代の人々に町の財産を継承するためには、地域間競争が本格化するだけに、一人でも多くの地域住民が町づくりに参加し、努力し、知恵を引き出し、その地域の魅力を高めることが重要です。今や、国に頼っても何もアイデアは出てきませんし、先ほども申しましたが現場からの知恵が予想を超えた結果を生み出します。皆様方の地域には世界に誇るスーパーカミオカンデの東京大学素粒子研究施設や近隣には世界遺産の白川郷もありますし、匠の技など他には真似のできないものがたくさんあります。市民と産業が共有できるイノベーションを推進する市へと向かっていくこと、飛騨市の内在する価値を磨き、創意工夫をすることが将来を発展へと導くことになるのではないでしょうか。
 いかにしてそのエネルギーをうまく引き出し、併せて高齢化と人口減少による経済力低下の不安要素をカバーできる対策目標を設定できるか、お役所の自己改革はもちろんのこと住民の皆様の意識改革と勇気ある行動がこれからの地域の発展には欠かせないものであると思います。

 すでにいろいろなアイディアが試されているかとは思いますが、官民一体になって"熱狂と行動"を"可能性と新しい展望"につなげていただきたいと思います。
 今後の皆様のご活躍と飛騨市の更なるご発展を願ってやみません。

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