執筆・講演

創造性の育成塾 2010年8月4日

「「夢の実現に向けて― 決してあきらめるな Never Give In! ―」

1.ダーウィンに学ぶ

 皆さんが理科好きの中学生ということで、私の話は「進化論」でおなじみのイギリスの自然科学者チャールズ・ダーウィンのエピソードから始めることにしましょう。
 昨年はダーウィンが生まれて200年目、「種の起源」が発表されてから150年目の記念の年でした。東京・上野の国立科学博物館では「ダーウィン展」が開かれたので、この中に行かれた人がおられるかもしれません。ダーウィンは父親が医師だったため、自分も後を継いで医師になろうと、エディンバラ大学で医学を学び始めました。

 しかし、ダーウィンは血を見るのが苦手で、外科手術になじめず、医学の道を断念しました。父親は失望しました。そして、そんなダーウィンを次は牧師にしようと、ケンブリッジ大学で神学を学ばせることにしました。子供の頃から植物や鉱物の採集が大好きだったダーウィンは「牧師なら空いた時間に好きなことができる」と考えて父の提案を受け入れ、ケンブリッジ大学に入学し、神学をそっちのけで昆虫採集や博物学、地質学に没頭しました。

 そしてケンブリッジ大学卒業後、恩師の紹介でイギリス海軍の測量船「ビーグル号」に乗船することになりました。これが後にダーウィンの運命を大きく左右するのは皆さんご承知のとおりです。

 5年にわたる航海のすえ、帰国したダーウィンは航海に関する科学的なレポートをまとめるかたわら、「種」(しゅ)の変化に関してあらゆる人たちから経験談を聞き出し、「すべての生物は存在し続けるための努力を繰り返すことで進化する」という"自然選択"の理論の概要をまとめていきました。こうした考え方を記(しる)した「種の起源」は「万物は神様の創造物である」という考え方が主流の当時においては「神を冒涜するもの」という批判もありました。
 しかし、その後は「進化論や現代生物学の基礎をなし、生物多様性に一貫した理論的説明を与えるもの」との評価が定着しています。

 ダーウィンがこうした偉業を成し遂げることができたのも、子供のころからの好奇心を失うことなく、困難に遭遇しても、探究心を燃やし続けて、ずっと夢を追い続けたからにほかなりません。

2. 夢の実現に向けて

(1)夢を持つこと
 私は最近、若い人が「夢は見るものであって、叶うものではない。だから、夢は持ちたくない」というのを聞いて、びっくりしました。確かに、現在の日本は人口減少と高齢化によって、成長力に陰りがみられ、どことなく元気がないようなところがあります。それは高度成長の真っただ中にあるお隣の中国と比べれば明らかです。
 ニュースでも報じられていますが、日本には働きたくても働く場のない若者が増えています。その人たちは働く意思や意欲があっても働く場、つまり仕事がないのです。自分の意欲が満たされず、明日への糧や希望のない若者が「夢を持つ」のは難しいかもしれません。しかし、そういう状況にあっても、「夢を持つ」ことは若い人の特権でしょう。そして「その実現に向かって前進する」のが青春です。
 若いうちに何かに没頭して、達成感を得ることは何物にも代え難い財産になります。勉強でもスポーツでも趣味の世界でも、何かを達成したら、そこから他のことに応用することができますし、その後の人生にも大きな影響を与えるでしょう。何かを成し遂げる道の途中では、迷ってもよいのです。夢を実現するために、一本道や最短距離を行った人などいません。もし、そのような人がいたら、その人は回り道がもたらす偶然の出会いや困難に打ち勝つ力を身につける機会を失って、かえってひ弱な人になってしまうように思います。

(2)「夢を叶える」ための3つのステップ
 では、ここからは皆さんが「夢を叶える」ための3つのステップについてお話しします。夢を叶えるための第一歩はまず「自分探し」です。つまり、「自分がどのような人間であるか」を知ることです。それが難しいんだ、と思うかもしれませんが、やり方さえつかんでしまえば簡単です。「自分が好きなことって何だろう?」「自分の得意なことは何だろう?」「自分は何に関心があるのだろう?」一それらの問いを自分に投げかけて、自分で答えてみてください。そうするうちに、本当の自分が必ず見えてくるはずです。

 二番目のステップは、人に頼らず、自分で考え、行動する力を養うこと。すなわち「個の確立」を目指すことです。私は最近、日本人に欠けているのはこの点ではないか、と強く思うようになりました。誰かがそう言ったから自分もそう思う、みんながそう言うからそうなんだろう、と周囲に振り回されるばかりで、自分自身の力で考えて判断し、行動することができない人が多くなっているように感じます。考え方や判断が他の人と違うと、人間は不安になります。

 しかし、十人十色ですから、考え方など違って当たり前なのです。お仕着せでなく、自分自身で考えたことなら、説明もできます。そうしたさまざまな考え方があって、初めて議論が起こり、物事が前進していくのです。

 どのようなことでも、より良い成果をあげたいと思うのは一義的には自分のためです。しかし、誰も自分一人で生きていけるわけではありません。自分を支えてくれる大勢の人に囲まれ、協力しあって生きています。ですから、「自分のため」は「人のため」でもあるのです。苦しいときに、歯をくいしばって頑張れるのも、自分のためだけではなく、「みんなのため」と思う気持ちが最後のひと踏ん張りにつながっているのではないでしょうか。ですから、「個の確立」は決して「独りよがり」であってはなりません。そこのところを誤解しないでほしいと思います。

 三番目のステップは、つねに確固たる志を持ち、ビジョンを高く掲げることです。「自分はこういう世の中をつくり、その中でどういう人間になるんだ」という強い意志と執念を持つことです。世の中といっても、いきなり国家や社会といった大きな単位で考える必要はありません。まずは友人との交友関係のような小さな単位で考えてみてはいかがでしょう。「友人と一緒にこんなことをしてみよう」という夢を持って、実際にそれに挑戦する。そうした「夢」がいつしか「志」となっていくのです。ですから、「大きな夢」ほど「大きな志」となっていくのです。

 これら三つのステップを一歩、一歩、踏みしめながら歩みを進めてください。あせる必要はありません。自分のペースで歩んでください。必ず夢の実現につながると思います。私自身、様々な経験を積み重ねて、壁に突き当たりながら自分なりに人間力を高め、夢を実現することができたのです。

 このようなことを言うと、「大竹さんは成功した人、夢を実現した人だからそんなことが言えるのだろう」と思われるかもしれません。しかし、私が夢を実現するまでの道のりは決して平たんではありませんでした。先ほどお話ししたように、私がアフラックに出会ったのは32歳のとき、日本社を設立したのは35歳のときでした。私が数え切れないほどの挫折を乗り越え、信念を貫き通したことが報われて、ようやく自分の人生を捧げることができる仕事「アフラック」と「がん保険」に出会うことができたのです。それまでの人生は「自分探し」の旅の途中で、まさに困難の連続だったのです。

(3)自分探し 古典に学ぶ
 私がここで皆さんにお伝えしたいことは、夢の実現への第一歩は「自分探し」にある、ということです。しかし、一口に「自分探し」と言っても難しいかもしれませんので、私がいつもしていることをお話ししますので、ヒントにしてみてください。
 私は毎日、時間をとって自問自答しています。これは自分を強くするうえで、とても重要なことです。自問自答をするうえで私を支えてくれるのは古典です。 今の人たちは本を読むことが少なくなったと言われていますが、皆さんの心の声に答えてくれるのが昔の人からの手紙とも言える古典であると私は思います。古典を読み考えることでいろいろな基礎力を身につけることができます。
 源氏物語、落語、音楽、映画でも結構です。古典はすぐには分からないかも知れませんが、今日読んだ古典と翌日読んだ古典が全然違って読める。古典が持っている独特のエネルギーが苦しい時に支えとなるのです。
 「賢者は歴史に学び、愚者は経験に倣う」ということわざの「歴史」は「古典」と言い換えてもよいでしょう。要するに、迷ったり悩んだりしたら、古典をひも解いてみなさい。自分の狭い経験だけで判断して答えを出してはいけません。道を誤りますよ、ということを示しています。

(4)個の確立 自分の人生
 「自分探し」の次のステップが「個の確立」です。私自身、与えられる道よりも自分で選び取る道がいい、それが幸せな人生につながると信じてやってきました。皆さんはどうですか?これまでは少なからず親が準備して与えてくれた道、先生が指導してくれた道を、歩いてきたのではないかと思います。それで本当に自分が納得する、自分が満足できる人生を歩めると信じていますか?「人任せ」の人生は、上手くいかなくなると人のせいにしたくなるのではないでしょうか。「アノ人がこうしろといったからその通りにしたのに、失敗したじゃないか・・・」と。
 「自分丸」という船の船長は「自分」でなくてはならないはずです。例えばこんな経験はだれにでもあると思います。親に「勉強しなさい」と言われて始めると、嫌な気分がつきまとって、なかなか本気で身につく勉強ができないのに、自分で「今日はこれをやろう」と決めて取りかかる勉強は、きつくても、苦痛ではなく、楽しく充実感を感じてできる、そのうえ素晴らしい結果がついてくる、という経験です。
 「鉄の女」といわれた、イギリスの元首相マーガレット・サッチャーさんはこう言っています。「同じ風に吹かれながら、一艘(そう)の船は東に、もう一艘は西に向かう。船がどちらに行くかを決めるのは風ではなく、帆の張り方である」と。自分の人生は、他人ではなく自分自身の手でコントロールしてこそ、真の「私の生き方」と胸を張って言えるのではないでしょうか。
 では、自信を持って前進するためにどのようにすればいいのでしょうか。まず、自分の中に正しい規律や信念・信条といえるものを持ち、これを拠りどころとすること、すなわち「自分を律する」と書いて「自律」。そして、自分の足で堂々と立って歩いてみせること、これは「自分で立つ」の「自立」です。「自律と自立」この二つが揃って出来るようになれば「個の確立」した存在となることができるのだと思います。

(5)確固たる志とビジョンの掲揚
 さて、「自分探し」と「個の確立」を踏まえて、いよいよ第三のステップに入りましょう。「確固たる志を持ち、ビジョンを掲げる」とはどういうことでしょう。「自分は何をしたいのか」を見つけ出し、そこに向かって、自分をコントロールしながら前進してください。
 それぞれの分野で、「できる限り多くの人の役に立とう」「世の中が待ち望んでいることを目標にしよう」という気持ちさえあれば、それが「確固たる志」であり、「ビジョンを掲げる」ことに他なりません。
 皆さんには「宇宙飛行士になりたい」「パイロットになりたい」「学者になりたい」「エンジニアになりたい」といろいろな夢があるでしょう。私のように「企業経営者になりたい」という人がいるかもしれません。どのような夢が尊く、どのような夢はたいしたことはない、という基準は一切ありません。私の経験で言えば、どんなに回り道をしても、人生で無駄になることなどありません。
 回り道と思った道が近道かもしれません。ですから、「これだ」と思ったことや「好きで好きでたまらない」ことを見つけて、全力でぶつかってください。

(6)失敗から学ぶ
 とかく日本では「失敗イコール悪いこと」というような見方があって、失敗が許されない風土があります。それに比べて、アメリカでは10の挑戦で一つでもうまくいけば大成功という考え方がおうおうにしてあります。
 失敗しても敗者復活が可能な社会であり、挑戦すること、新しいものを取り入れること、失敗から学ぶことを恐れません。むしろ「リスクをかえりみずに挑戦し、成功した人」を高く評価し、尊敬します。
 誰かが成功すると、一緒になって喜ぶ。「出る杭は打たれる」のが当たり前の日本とは大きく異なる点でしょう。「失敗は、それを生かす者にとって財産になる」といわれます。失敗は起きてしまったことだから仕方がありません。失敗そのものではなく、失敗から何かを学ばないことがいけないのだ、ということがわかれば、失敗が失敗でなくなるのではないでしょうか。皆さんも失敗を恐れることなく、失敗を次の成功の糧にする、という気概を持ってチャレンジして下さい。

おわりに

 ここまでいろいろと「夢の実現」に必要なことをお話ししてきました。最後に最近の身近な話題に触れてみたいと思います。それはサッカー・ワールドカップ南アフリカ大会での日本代表の活躍です。日本代表は一次リーグを突破して、決勝トーナメントに進出し、日本中に夢を与えてくれました。大会前は練習試合に4連敗したため、一次リーグ敗退を予想する人がほとんどでした。しかし、日本代表はあくまでもベスト4を目標に掲げて、大会に臨みました。もし、このとき日本代表が目標をベスト4から一次リーグ突破に変えていたら、どうだったでしょう。私は違う結果になっていたのではないか、と思います。

 日本代表は自分たちの信念に基づいて、目標を高く掲げて戦かったからこそ、一次リーグを突破できたのではないでしょうか。日本代表のMVPといってもよい、本田圭佑選手は母校の星稜高校に凱旋して、在校生を前に「自分もまだ夢の途中です」と新たな飛躍を誓い、「皆さんも大きな夢を持って頑張ってください」と後輩を激励しました。また、何人かの選手は活躍が認められて、ヨーロッパの一流クラブに移籍することになり、子供のころからの夢を叶えました。
 このように、サッカー日本代表は私たちに「確固たる信念を持ち、高い目標を掲げ、全力で立ち向かうこと」の大切さを教えてくれました。夢は目標と同じです。大きな夢を持つことが実現を容易にすることもある、と言っても過言ではありません。

 この「創造性の育成塾」を通じて、さまざまなことを吸収した皆さんは、育成塾が終わるころには、これまでとは違う自分を発見するでしょう。そして、夢に向かって新しい一歩を踏み出すに違いありません。アイデアと工夫と情熱を持って自分の描いた夢に向かって、まっしぐらに進んでください。皆さんがそういう気持ちになってくれれば、日本の将来は明るいものになるに違いありません。
 「夢は叶う」ことを信じ、決してあきらめることなく、夢の実現に突き進んでほしいと思います。若い皆さんには限りない可能性があります。私はそんな皆さんにエールを送るとともに、大きな期待を寄せています。いつかまた大きく成長した皆さんとお会いできる日が来るのを楽しみにしています。ありがとうございました。

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