執筆・講演

中国新聞LEADERS倶楽部 秋の交流会  2010年10月25日

広島の座標軸を問う

結論

 私は、今改めて、日本の思想、哲学を考えることが必要な時代ではないかと痛感いたしております。物の見方、幾つかのドラマの型(考え方)を変えなければ、仕組みを変えることはできないのです。まさに180度の発想の転換が必要となります。
 明治以降、日本は欧米先進国の先進事例を目標にしながら発展して参りました。いわゆる物真似経済。しかし、今の日本は自ら独自の目標を定めて解決し世界の範となる先進社会を創っていくことしか生きる道はないのです。これこそが日本再生の道であると思います。日本の先端技術と文化創造力をもってすれば十分に可能な道であります。
 先進的な課題を解決する日本初の新しいモデルを広島で創りあげる。難しく考えることはありません。県民が最も望む社会は、民が中心となる社会、官は民ができない部分を補う社会であることが、それが広島の経済の繁栄につながると考えます。
 これを実現するだけで、数%の経済成長が可能だと確信しています。明確な目標が組織を動かすのです。

1. 広島の座標軸について

 では「座標軸」とは何でしょうか。改めて考えてみますと、なかなかはっきりしませんので、本日は資料をご用意させていただきました。広辞苑によりますと、「座標を定めるための基準とする直線」とあります。

 私は1994年に『これでいいのかニッポン』という本を上梓させていただきましたが、16年たった現在においても、日本には未だ、座標軸がなく方向性が定まっていません。

 何故、私が広島、そして日本に今、「座標軸」が必要であるかと申しますと、先ほども申しましたが、今の日本には羅針盤がなく、さらにはそれを定める「座標軸」もない。結果、日本も広島もより劣化が早まり、回復に手間取どってしまうからです。

 「座標軸」は、「時間軸」「空間軸」の二つの軸を中心として過去を振り返るとともに、未来を展望するものであり、この国、県をどのようにしたいかという思想、哲学から生まれるのです。座標軸がないと議論が成り立たないのです。競争の中で広島が埋没しないように意識する横軸としての広島の歴史、伝統道。自分達の次世代に受け渡していこうとする縦軸の双方を強化することで自信と誇りを持つことだ。ブレることなく、戦略策定が必要な今だからこそ「座標軸」が重要になってくるのです。(国単位から地域単位の見方)
 グローバル化は相当なスピードで進んでいます。グローバル市場での競争、フラット化する世界の中で、日本はどのように持続可能な成熟社会にすべきか?日本浮上の方策を探り、浮上の推進力とするためにも、座標軸を定めることが不可欠でにあると思います。
 軸が示されれば一人ひとりの変化と行動につながっていき、さまざまな勇気が湧く。そして経営者は野生のエネルギーを発揮するのです。

日本初の「広島医療クラスター構想」を実現させ、広島で生活したいと思われる都市創りを

 それでは、今、何からはじめるべきか?既に、沢山のアイデアが進められていると思います。
 現在、広島県では、成長戦略の一つとして湯崎知事を中心に「海の道―瀬戸内構想」を打ち出し、瀬戸内国際芸術祭を開催されておりますが、私はもう一つの軸として「広島医療クラスター構想」の推進を提言したいと思います。この構想では医療関連のサービス消費が増えることにより、医療だけでなく、幅広い分野での需要増加が見込め、地域振興につながるものと確信しています。
 現在、医療・介護・福祉の分野の産業は50兆円規模ですが、将来的には100兆円規模となると予想されております。ですから全国に先駆け、日本初の取り組みとして、新しい成長産業のひとつである医療を中心とした新しいビジネスモデルを創ることで、医療産業革命を広島から起こす。
 私がアフラックを創業した想いと同じなのです。社会貢献とビジネスは両立するものなのです。

 何故、医療であるかと申しますと、現在のニッポンでは最も成長が見込まれるからです。医療問題は実際に病気にならなければ自分のこととして理解できない。私自身がんになり、治療は米国で行いました。
 何故かと申しますと、後遺症や副作用といったリスクの少ない、入院日数の短くてすむ小線源療法が自分にとってベストだという結論に達し、「永久留置法」による「密封小線源療法」を希望しました。しかし、2001年当時、米国では一般的なこの治療法が、日本では許可されておらず、私の望む治療は当時できないことから米国で治療しました。日本は先端、先進医療の遅れた国であると実感しました。
 そのため、手術し帰国した直後、小泉総理の協力を得、2003年に小線源療法がようやく日本でも導入され、現在日本では、年間累計で15000例を数えるまでになりました。
 こうした一つひとつの問題を解決することが、県民の皆さんが最も望む医療を提供することにほかならないことであり、医療を中心としたビジネスを発展させ、新しいビジネスモデルを創りあげることが医療産業革命であります。

2.医療クラスター

 欧米では、医療を中心として都市が形成されています。アメリカでは、テキサス州のMayo Clinicが有名ですし、私が理事を努めているワシントン州のシアトル・サイエンス・ファンデーション等多数ございます。

 医療クラスター構想は、財団法人癌研究会 顧問 土屋 了介氏が中心となり推進されているもので、広島でも4月22日に医療クラスター構想 第3回シンポジウム「広島医療クラスター構想−患者さん本位の医療のために−」が開催されております。

 土屋先生が中心となっている医療クラスター研究会では、医療現場の危機打開と再建のために「患者さん本位の医療体制は」と問い続け、『医療クラスター構想』を提唱されています。
 この構想は、現在の医療システムが抱える多くの問題・課題に対して、「医療クラスター研究会」が提唱する新しい医療の姿であり、地域医療の核となる医療クラスターと、地域の病院やかかりつけ医との医療ネットワークの構築を目指しております。このことにより、医療先進地としての地位を築くと同時に、地域の核としてまちづくりの推進力にもなるのです。

 広島にご提案いただいている医療クラスター構想は、広島でも多くの方々は賛同されていると伺っております。

シアトル・サイエンス・ファンデーションの事例

 私は、シアトル・サイエンス・ファンデーションの理事を仰せ使っていることもあり、2007年に最先端の施設を視察に行ってまいりました。
 ここでは、医者、科学者、科学技術者、エンジニアと教育者の間で国際協力活動を行っています。トレーニング施設とインターネットとの連結性は、専門医学教育、トレーニング、対話と技術革新を通して健康管理の改善を促進しています。

 何故、シアトル・サイエンス・ファンデーションをご紹介させていただきましたかと申しますと、最先端の医療データのセンターとしてデータを蓄積、分析、研究することで医療を革新していく。そこで得たデータ、ノウハウを各企業は独自のアイデアで展開していくことで新たなビジネスを発生させるということです。つまり世界最高峰の医療データを戦略として用いていこうというものなのです。

 今回、是非、広島でシアトル・サイエンス・ファンデーションの紹介をさせていただきたいと、責任者に話をしましたところ「The train of innovation is leaving the station」つまり、「乗り遅れるな」と激励されました。まさに ―ビジネスチャンスを逃すな ―ということではないでしょうか。このメッセージは非常に印象に残りました。また、「日本は何もしないとより取り残される」といっておりますので、まさに医療を核にした展開のチャンスであるのです。

現状
 何故、医療クラスター制度が必要かと申しますと、今の医療制度は、総合病院、大学病院が中心となり、中規模の病院や診療所が点在しており、連携がとれていないのが現状です。また、病院を管轄する省庁も異なっています。その結果、救急車がたらいまわしにされ、不幸な結果を招いたとうニュースは各地で報道されています。
 こうした問題を打開するために、一つの地域といいますか、エリア内にいくつもの病院があり、それぞれが連携をし、あたかも一つの病院として機能することで、効率が高まり、質の向上につながるという沢山のメリットが生まれる。そして24時間、全ての診療科目がカバーできるようになるのです。
 つまり、その地域に行けば、何らかの治療が行われ、状況によって高度な技術や施設が必要となればその地域内を移動することで、すぐさま治療が施されることが可能となるのです。
 これが実現となれば、日本の医療の課題は解決されるのです。広島の県民の皆さんも日本初のシステムでもっとも望む治療を受けられることになり喜ばれることではないでしょうか。

 私は、韓国の大邱市から依頼され、顧問としてアドバイスを求められているのですが、今年7月、神戸市と韓国の大邱市が親善協力都市提携を締結しました。大邱市は広島の姉妹都市でもありますので皆さんご存じであるかと存じます。大邱市は韓国国内での医療特区を目指しており、関係者から相談を受け、私が神戸の医療産業都市構想、先端医療担当者をご紹介させていただきました。その結果、大邱市は神戸市との交流、提携を見据えた関係を構築したことで、昨年医療特区に選ばれ、本年は親善協力都市の締結がなされ、大変感謝されました。

 社会が抱える問題をビジネスに転換すること。これが機能することで、その周辺には医療産業が発展し、それにともなう従業員の生活産業 住宅、商店が発達することで経済的自立とともに問題解決が図れるのです。
 さらには、ここ広島では「医療クラスター構想」を広島駅のJR貨物の跡地を予定しておりますので、新幹線で東西から容易に患者さんが来ることが可能となり、そのことによりさらなるビジネスの発展が考えられます。
 例えば、ご家族や付き添いの方が滞在するホテル、長期滞在に必要となるショッピングセンターなどです。
 本日ここにお集まりの行政・経済界・大学等のリーダーの皆さんが中心となり、すでに設置が検討されている施設を含め、日本初の「医療クラスター」を広島の座標軸として検討いただければと存じます。

 なぜ、ここ広島でこのような日本初のシステムをご提案させていただいたかと申しますと、冒頭でも申しましたが、広島は日本の縮図であり、広島の成功は日本の成功になるからです。日本はいま新成長戦略に活路を見い出そうとしています。であれば、広島も同様に新たな成長戦略にかけるべきです。幸いまた、現在広島では、数々の医療施設構想があることから、クラスター化、ネットワーク化が可能となり、日本初の試みが実現できる環境からにあります。そして何よりも広島の皆さんはそうした心意気があるのですから、先陣を切ってがんばろうではありませんか。

まとめ

 わが国は、知の時、知識構造の時代に突入したといわれています。われわれは成熟社会を生き抜く知恵をもった人づくりを行うことであり、また、高い志、即ち世の中を変えるという使命感に目を見開かせ、それを育んでいくことに他なりません。

 私は今年の8月の夏季休暇中、中学生、高校生、社会人を対象に4つリーダー養成塾に携わりましたが、それぞれのプレゼンテーションや、参加者のレポートを読んで嬉しくてたまりませんでした。信じられないような使命感で偉業を達成しています。
 若いエネルギーと情熱そして夢と希望に満ちているのです。未来への希望はあるのです。ですから、われわれが、日本の再生の道を探り、座標軸を定め、解決し世界の範となる先進社会を創っていくことではないでしょうか。
 「失われた日本の20年をどうしてくれるのか?」という他人事の姿勢ではなく、「立ち遅れた20年を取り戻すには私共は何をすべきか?」私共は真剣に考え、真正面から挑戦すべきであります。
 そして、市民型社会、市民が主役、官は脇役となる社会を、皆さんの手で創りあげていただきたいと思います。官に頼らないということは、財政基盤は民間の浄財や基金からの助成。個人や企業からの寄付、支援会員の購読料。これも公共財とみなす、市民意識の健在さを創ることです。これは欧米の先進国では既にこのような社会を実現しているのです。
 民主導の社会が何故必要か? それは、行政はややもすると「法律にない」「前例がない」「予算がない」といった理由をあげ、住民の声を受け流してしまうことがありますが、それではいけません。もっと真摯に市民の声を受け止めないと地域を元気にすることはできません。

 すべての出発点は地域での暮らしを良くしようという努力であり、そこに新たな需要、新たな産業の芽が生まれる。勿論その試みが個々の地域で行われるだけでは実は結びません。個々の知恵には限りがあります。ですからそこで同じ課題を持つ地域同士の連携、ネットワークが必要。ネットワークを組んで互いの知とアイデアを交換すれば、よりすばらしい解決策が見つかると思います。ネットワークづくりとそして「人づくり」からの地域活性化を是非とも融合させることとで素晴らしい活力がでるものと思います。

 そしてリーダーが座標軸を決め、市民を信頼して任せてくれるならば、必ずよい結果が得られると信じています。産業インフラの整備とコミュニティ作りで広島をより一層賑わいのある地域にしていただきたいと思います。
 私は「登れない山はない」と思います。皆さんのリーダーシップで広島を輝かしい県に変えていただきたいと思います。私も微力ではございますが、注力してまいりたいと存じます。

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