執筆・講演

第14回高齢者介護研究会 2010年11月12日

「心に寄り添う」

 昨日は11月11日は"いいひ、いいひ"の「介護の日」でした。そもそもこの日は多くの方に介護を身近なものとして捉えていただくと共に、それぞれの立場で介護を考え、理解と認識を深めてもらい、地域社会での支え合いや交流を促進するため厚生労働省が意見公募をして名称を付け、制定されたものです。
 重点的に啓発活動を行う日として平成20年に制定されました。今年は「介護フォーラム」も開催されました。

 ご縁があって昨年まで社会福祉法人東京都社会福祉協議会会長を4年に亘り務めましたが、なぜこのような私が東社協の会長を仰せつかったのか、社会福祉や社会保障の組織的な活動に直接関わってこなかったからこそ斬新な目で、組織や活動、運営を見直すことができるのではないかとご期待いただいたようです。直接携わっていない人間が客観的に外側から見ることも大切なことなのでしょう。解決しなければならない問題はどこにも山積しています。

1. 「The Aflac Way」と「感動介護」

 アフラックには「人々を大切にすれば、ビジネスは後からついてくる」という言葉があります。この言葉は米国本社の経営トップが50年間、代々大切にしている創業時の志であり、現在では確固たる企業理念「The Aflac Way」として確立し、これこそが世の中の人に幸福を提供するという理念となっています。
 「人々を大切にする」という理念は、日本社でも受け継がれ底流に流れております。この理念を信じ、社員も保険の販売に携わっていただいている代理店の皆さんも、お客様の心に灯をともそうと活動・努力した結果、創業以来このように成長させていただくことができました。真実、真理を探求をすることで、流行に惑わされず、主義、主張を貫くことができる、という信念は、どんな時代になってもぶれてはならないのです。こうしたぶれない企業文化を持つことの重要さは、我々にとっての最高の価値として全社に浸透しております。
 何故、これほどまでに企業文化が大切かと申しますと、企業文化は簡単に「物まね」や「コピー」ができないブランドだからです。お客様から愛され信頼される企業であり続けるためにぶれない信念を持つことが大切です。

 本日この講演会にお招きくださった神成理事長はよく「感動介護」と仰っておられます。
 "「感動介護」"、"相手の心を動かす介護"が職場を、社会地域を、国家のあり方さえも変えていくであろう、という理事長の信念・理念は、図らずも私どもアフラックの「人々を大切にする」という企業理念と合致します。
 どのような業界、世界でも人を大切にする、人の心に寄り添うということが特に現在の世の中で大切になるのではないでしょうか。心に寄り添うこと、難しく考える必要はありません。例えば、アフラックでは給付請求の書類を社名の入らない白い封筒で送り、電話では社名を名乗らず個人名で架けています。相手先の事情を慮った対応です。

2.安心と希望の介護ビジョン

(1)「安心と希望の介護ビジョン」提言
 平成20年7月、当時の厚生労働大臣だった舛添要一氏のもと、厚生労働省と有識者で「安心と希望の介護ビジョン」を検討する会合の第1回目が開催されました。
 以降、約半年に渡って厚生労働省側と有識者のメンバーで議論を重ね、平成20年11月20日付けで『「安心」と「希望」のある超高齢社会を実現するために、2025年を見据えて取り組む施策』として答申を出しております。
 その答申の中で三つのビジョンを掲げておりますが、その三つの施策とは
① 高齢者自らが安心と希望の地域づくりに貢献できる環境作り
② 高齢者が、住み慣れた自宅や地域で住み続けるための介護の質の向上
③ 介護従事者にとっての安心と希望の実現
であります。

 その中の「介護従事者にとっての安心と希望の実現」には、「各事業者における介護従事者の処遇に関する情報の公表」、「介護従事者が誇りとやりがいをもって働くことができる環境の整備」、「介護従事者の確保・育成」が掲げられております。中でも「介護従事者が誇りとやりがいをもって働くことができる環境の整備」には介護従事者の処遇改善や、介護事業の効率的な経営のための経営モデルの作成・提示、教育の充実や能力開発などの支援、そして国民に介護職の役割や魅力に対してより深い理解や認識を求め、介護従事者が誇りとやりがいをもって働けるような社会的意識の醸成を図らなければならない、との提言が盛り込まれております。
 私もまずは国民一人ひとりの認識・意識を変えていく啓発活動が必ず誰もが足を踏み入れなければならない高齢化社会に対しての理解を深めることに大切なことの一つと思っております。

(2)介護を受ける側の立場
 さて、話は介護をする側から、受ける側に変わりますが、介護を受ける立場の方は介護をする側の方にまず何を求めておられるのでしょうか。
 介護を受ける側、高齢者であったり、要介護者であることは社会的弱者であり、保護されるべき存在と従来は考えられてきました。しかしながら昔とは人の気持ちの持ち様も、変わってきましたし、高齢者になっても楽しみや希望を持って生きていたいと前向きに考えておられる方も大勢おられるようになりました。当然、介護を受けるような状況になっても、むしろ何かのお役に立ちたい、まだまだ人生を楽しみたい、と思っておられる方も増えてきているのではないでしょうか。
 如何せん、老いは間違いなく一人の例外もなく誰の身にも迫ってきます。今、介護をしておられる側の方がいつか逆の立場に立たされるかもしれません。年をとっても、要介護になっても人間は人間としての尊厳をなくすことはありません。
 先日、耳にしたことがあります。介護ヘルパーさんがデイサービスを終えた高齢者をご自宅にお送りした時の事です。お送りして玄関を入って家族の方に声をかけたそうですが、普通は玄関先まで出てきて迎えてくれるものと思いますよね。その時は奥にいる家族の方から「そこに置いてってください!」と大きな声で言われたそうです。まるで物を置くように。告げられたヘルパーさんは本当にやるせない気持ちになったそうです。家族にしてこれです。この例が普通だとは思いませんが、何かが違っていますよね。さらには遺骨を引き取りに来ない例もあるとか、家族間の絆も薄れてきているのでしょうか。
 私たちもそうですが、高齢者も要介護者も皆、安心して生活ができ、ほんの小さな希望でも良い、生活の先に光が見えるような気持ちの良いささやかな幸せを求めておられるのではないかと思います。

3.心に寄り添う

(1)心の栄養
 皆様方は現場で介護のお仕事に携わっておられて、あるいは介護に関わるお仕事に携わっておられて、肌身で感じておられることがたくさんあるかと思います。
 一口で高齢者の介護といいますが、先ほどもある家族の話をしましたが、介護される方もいろいろなご家族の状況、身体の状態、その他いろいろありますから、皆さん気持ちよく問題なく介護を受けてくださる方ばかりではないでしょう。恐らく、介護される皆様方のほうが途方にくれたり、悩んだり、疲れてしまったり、想像ができます。その皆様方に、鞭打つように"どんな時でも笑顔を絶やさず"、"心を寄せることを心掛けて"とは言いにくい。皆様方のお仕事は心身ともにとてもエネルギーを使うお仕事ですから。
 しかし、ご自身のお仕事に「生きがい」とあまねく"公"の精神で社会の大きな役目を担っているという「自信」を持っていただきたい。

そして、"生きがい"と"自信"を皆様方の心の栄養にしていただきたいのです。
一人で悩まず、無理せず訴えてください。頑張りすぎないことです。

 今年9月末に介護従事者の昨年度の平均年収が約206万円だったというニュースが流れました。国税庁の調査による昨年度の民間企業で働く人の平均年収は約406万円だそうですから、その差は歴然としています。
 介護される側の方にとっての心地良い介護をするためには、信念だけで、あるいは理想論ばかりでは十分なことはできないでしょう。
 介護をする方にとっては、心に余裕を持ち、体に栄養を与え、いつも笑顔で健康でなければ、本当に心に寄り添う介護をすることは厳しいのではないかと思います。しかし、"心に寄り添う"ということは過剰、過度なサービスをいうものではありません。先ほどアフラックの例を話しましたがちょっとした心遣い、心の琴線に触れるような気遣い、心遣いと考えてください。
 現場をご存知の皆様方の生き様が、また皆様方が発信する提案、提言が大きなエネルギーになり、環境を変えていく後押しになることは間違いありません。
 一日も早く皆様方の処遇も改善され、少しでもゆとりを持って働くことができる環境が出来上がることを切に願っております。

(2)「大切にされること」の大切さ
 私どもアフラックの社員がお客様に接する時に、私はその心得をいつも次のように言っております。"あなたたちは自分の仕事に対して、「生きがい」を持っているか"と。「生きがい」を持って仕事をするためには全員が本当にその企業で大切にされることが大切です。大切にされていないと本当の笑顔を作ることができません。
 またお客様に対しても良い印象を与えられないのです。お客様はその会社の社員から、どの程度の経営者が、どんなことをしているのかということを読み取ります。経営者の志が顔に表情に表れるからです。
 ですから経営者側も本物の笑顔を作っていただけるよう社員、従業員の方を大切にする努力をしなければならないのです。
 神成理事長が率いておられるグループの方々は皆様、理事長の強いリーダーシップのもと、志を十分理解されて活動・活躍をされていらっしゃるものと思います。皆様方も大切にされて日々お仕事をされているでしょうから、本物の笑顔を作れるはずです。自然と笑顔になるのです。
 使命感を持つと、仕事に対する誇りもでてきます。
神成理事長が仰る「感動介護」の原点である心に寄り添う介護こそ相手の方に安心を与え、希望の光を灯すものであると思っております。
 そして、大切なことは相手を敬うことで互いの信頼が深まる、ということです。このことは会社においても、家庭においても、どこにあっても同じことが言えるでしょう。

(3)心からの「ありがとう」
 皆様方は心をこめて介護した方から「ありがとう!」と言われて、仕事の疲れも忘れ、心から「良かった!」と心が温かくなったことが何度もあると思います。こんな一言がお互いの信頼関係を築き、高めあうのです。

おわりに

 私たちは今、社会の中で「人を愛すること」「慈しむこと」「思いやること」などを見失い、人間的な心を忘れ、疲弊し、道を外し、どこに向かうべきか見失ってさまよっていることすら気づかない忙しさにあるように思います。
 時々立ち止まって静かになって心の声を聴く習慣を是非、身に付けていただきたいと思います。

・ 静かに心を落ち着かせ、自分の心の中から自然と湧き上がってくる声に耳を傾け、生きる上でのヒントを得る時間を持ちたいものです。
毎日の忙しい日常からちょっと離れて少しの時間でも結構ですから。

・ 自分の心の声に耳を澄ますこと
そして人に尽くす思いやりの心にこそ真の答えと調和があるのです。

・ いつかではなく「いつも」「今」できること自分の意識を転換させ、理論だけでなく、アクションを起すことです。
継続することの大切さをわかってください。

 最後に今日は介護を学んでおられる学生さんも参加されていると伺っております。皆様方が志した尊い道を是非途中で投げ出さずに全うしていただきたい。
 厳しいこともたくさんあろうと思いますが、多くの先輩方に学んで、心に寄り添う介護ができるプロフェッショナルになっていただきたいと思います。皆様方の今後のご活躍に心から期待しております。

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