執筆・講演

内外ニュース釧路・札幌懇談会11月例会 2010年11月15日・16日

住民参加による地域医療を

結論

 皆さんご承知の通り、日本の医療、特に地域医療は崩壊しているといわれております。国にも地方にも財源もなく、医療制度、改革も進まない状況にあります。
 であるからこそ、住民参加、住民目線での医療ビジネスを展開することで、医療問題を解決するとともに、地域の経済発展、人口流入による地域を活性化を図る。医療ビジネスをビジネスチャンスと捉え、医療をコアとした好循環を生み、新たな周辺産業を創り出す。そこには地域の特性を生かし、オリジナリティあふれたアイデアで、その地域に特化した医療体制を作ることです。それこそが住民の最も望む医療を提供することができる。

1. 日本国内の取り組み

 診療報酬改定による医療費抑制により、あるいは国から自治体への交付金や補助金の削減により、自治体の病院経営を圧迫しています。しかし、日本国内でも医療は地域全体で考えるべきであるとし、地域医療連携など、独自なアイデア、方法で地域医療を改革、また立て直されておりますので、その事例をご紹介させていただければと存じます。

◆ 千葉県 ― 「千葉県地域医療再生プログラム」

 千葉県は、銚子市立病院の突然の休院により、まさに地域の医療崩壊が現実ものとなったことを全国に示すことになりました。そこで、県では、医療崩壊の危機で有名になった千葉県"を『将来にわたって安心して医療を受けられる千葉県』とすることを目標に掲げ「地域医療再生を実現したモデル県」に生まれかわらせるため、「千葉県地域医療再生プログラム」をまとめました。
 このプログラムの特徴は、行政、医療者、住民の3者でコミュニケーションを重視しながら、新しい智恵とを力で再生させようとするものです。
 そしてプログラムの柱を
・ 「県内医療機関の役割分担・機能再編・ネットワーク化」
・ 「在宅医療従事者の確保、研修のシステム化」
・ 「地域住民と医療者、行政の協働」
の3つとし
 「良い医療」の実現のために、県では「お医者さま」でも「患者さま」でもない「治療への協力関係へ」を目標に、新たな医師・患者関係の構築を目指しています。
 この千葉県の取り組みの詳細につきましては、「21世紀医療フォーラム」のサイトをご参照いただければと思います。
 「21世紀医療フォーラム」とは、医療問題に「解決型」の提言を目指す組織であり、"良い医者、良い医療を創るプロジェクト"を推進しており、本フォーラムは、医師、官界OBのドクターズボード(医師会議機構)、財界の支援者を中心としたマネージングボード(経営者会議機構)の2つのボードで構成され、両2者間の交流、意見交換により、医療問題解決に向けた提言を行うもので、私もメンバーとして参画しております。

◆ 徳島県 − 遠隔医療を全県で導入へ

 医師不足に悩む地域の医療を支援するため、徳島県は今年度から、ICT(情報通信技術)を活用した全県的な「遠隔医療システム」の構築に取り組んでいます。
 地域の病院・診療所と基幹病院をインターネット回線で結び、患者のエックス線やCT(コンピューター断層撮影)、病理検査の画像データを基幹病院に送信。その画像を基幹病院の放射線科医や病理医が見て診断する仕組みです。

 この計画も県が作成した「地域医療再生計画」の事業の一つで、2012年度以降の導入を目指しており、具体的な内容や運営主体などは、徳島大や県医師会、公的病院の関係者らでつくる検討会で決める予定だそうです。
詳細につきましては、2月10日徳島新聞をご参照ください。

◆ 愛知 − 地域在宅医療ネットワーク事業

 次は、県としての取り組みではなく、個人の取り組みについてご紹介させていただきます。世界で活躍する社会企業家をサポートするSEOY(Social Entrepreneur Of the Year In Japan)の表彰があり、本年度のファイナリストに選ばれた川上里美さんは、高齢者や障害者の方々の介護と生活サポートの事業をされています。
 川上さんの事業の特色は、介護保険の適用となる、ヘルパー等の有資格者による専門的な介護サービスと、介護保険の適用外となる生活援助を、同一のスタッフが行う、統合型のサービスを提供されているという点です。
 通常この2つのサービスは、まったく別の枠組みで提供されていることから、専門的な介護ケア以外の日常生活上の生活援助は、介護のサービスとは別の団体に、別のサービスとして依頼をしなくてはなりません。
 川上さんはその不合理性に着眼し、介護も生活援助も同じ人が担当することを事業化されました。介護の仕事をしたあと、日常的なささやかな日常のニーズでも、自分のニーズをよく知っている、普段から来て下さっている方、しかもヘルパーとしての資格を持っている方に、安心してお願いできる。
 これは管理上の都合、あるいは収益上の問題で、他の団体が実現しにくいサービスを、利用者の立場に立ち、実現した素晴らしいサービスだと思います。

 川上さんはビジネスも大切ですが、重視されるのは、「助け合い」という相互扶助の精神だそうです。日本社会には本来持っていた「地域の絆」、「助け合いの精神」というものがございます。
 社会が抱える問題をビジネスに転換すること。これが機能することで、その周辺には医療産業が発展し、それにともなう従業員の生活産業 住宅、商店が発達することで経済的自立とともに問題解決が図れるのです。

まとめ

 民主導の社会が何故必要か? それは、行政はややもすると「法律にない」「前例がない」「予算がない」といった理由をあげ、住民の声を受け流してしまうことがありますが、それではいけません。もっと真摯に市民の声を受け止めないと地域を元気にすることはできません。

 市民型社会、市民が主役、官は脇役となる社会を、皆さんの手で創りあげていただきたいと思います。官に頼らないということは、財政基盤は民間の浄財や基金からの助成。個人や企業からの寄付、支援会員の購読料。これも公共財とみなす、市民意識の健在さを創ることです。これは欧米の先進国では既にこのような社会を実現しているのです。

住民の声を反映させる

 医療制度改革の出口を見つけることの一つには、全国社会保険協会連合会 理事長 伊藤 雅治様も、医療提供書、保険者中心の決定プロセスから、患者・市民の声を反映させることであると提言されております。

 また、千葉県でも、もはや行政だけで医療問題を解決することは不可能であることを認識し、医師会・大学・医療機関、市町村、医療者、患者、県民と協働して進めることが重要と考えるようになったといいます。まさに、そこに住民参加の医療が実現し、住民が最も望む医療体制ができるのではないかと思います。まさに、危機に陥ったことにより行政の意識改革があったことにほかならなりません。
 また、住民参加とするためには、行政からの積極的な情報発信を心がけえているそうでうす。ですから、内外ニュース様がこうした情報発信をリードしていただければと思います。

 現在、医療・介護・福祉の分野の産業は50兆円規模ですが、将来的には100兆円規模にとなると予想されております。先月、広島でも医療ビジネスをチャンスとらえ、是非、日本初の画期的な医療制度の確立についてご提案さていただきました。ですから、ここ、釧路・札幌でも新たなビジネスチャンスととらえ、本日ここにお集まりのみなさんがリーダーとなり、住民参加による医療を推進し、安心して暮らせる、そしてすみやすい地域を創りあげていただきたいと思います。

執筆・講演一覧へ戻る