執筆・講演

独立行政法人教員研修センター 2011年2月24日

「今求められるリーダーとは」― 大竹の考えるリーダーの要件 ―

結論

 混沌とした世の中において、今、求められるリーダーとは「高い志」を持ち、「ぶれない信念」を持っている人であると思います。そして何よりも「人間力」を持たなければなりません。何故なら尊敬されなければ誰もついてきません。

1.リーダーについて
国内外の各界のリーダー

 「リーダー」と聞いて皆さんはどなたを想像されるでしょうか。その一挙手一動に最も注目され、批判を浴びるのは米国のオバマ大統領であったり、菅首相ではないでしょうか。その他、経済界やスポーツ界、最近ではサッカーアジアカップの優勝をもたらしたザッケローニ監督が優れたリーダーとして話題になりましたが、皆さんの教育界ではいかがでしょうか。

サーバント・リーダーシップ

 人間は環境に慣れると、それが当たり前だと思い込んでしまいます。危機的な状況が訪れてやっと疑問を抱くようになるのです。
 今の日本のあり方、自分が加わっている職場の現状をその目で見直してみると、これまでの見えなかったものが見えてくる。いや、見えないものを見抜く努力が求められます。
 改革すべきことは多いと思います。そのためには、力強いリーダーシップが必要になります。
 最近提唱されているのが、サーバント・リーダーシップです。耳慣れない言葉だと思いますが、ここで求められるのは粘り強い対話であったり、自己犠牲の心です。

羊飼い型リーダーシップ

 現在、日本もグローバリゼーションの影響を受けて、欧米型のトップダウン型のリーダーシップを発揮しなければという風潮があります。しかし、なかなか、難しいようです。日本の組織では、強いリーダーというよりは、調整型の人間がリーダーとしての役割を、長年、演じてきたところがあります。

 私自身は、最近、思うのですが、「羊飼い的リーダー」が日本人に合うのではないかと思います。それは、トップダウン型ではなく、羊飼いのように、すべての状況を見通して、横にそれないように、後ろから、羊たちを、ある方向性に誘導していく方法です。ザッケローニ監督は控え選手との会話も重要視したといわれておりますので、ザッケローニ監督はまさに羊飼い型の立派な指導者であると思います。
 スポーツの指導者、ゲームの指導者はリーダーと呼ばず、インストラクターといいます。各種団体の指導者は普通ディレクターといい、これもリーダーとは区別されています。

 江戸時代の武将で、リーダーといわれるのは殿様ですが、LORD(領主)であり、一般の武士はHERO(勇士)であり、決してリーダーとは申せません。

 リーダーは、絶対に自称することは許されない。他の人々が敬い、頼ることによってしかるべき人にのみ与えられる他律的な称号である。地位とは無縁であり、リーダーには謙虚さと理念が必要です。 もちろん、その場合も、リーダー自身、心がけていなければいけないものがあります。

 このようにリーダーシップとは、「ワンマン」「ボトムアップ」「集団主義」といったスタイルではなく「質」。今問われるべきはリーダーの行動の「本質」なのです。それによって組織、風土まで変えることができるのです。

 リーダーは10年先を読み、マネージャーは今日一日の算段をする。リーダーの下す指示や命令は目先の利害に追われてはならない。組織全体を見渡し、将来のことを考える。いわば、戦略的な視点が必要なのです。
 マネージャーは受け持つ部門を十分に機能させる役割を負っている。上から与えられる目標を戦術として具現化することがその役割なのです。

リーダーシップの質に左右される

 藝術の活動でも、本当に頭が下がるような立派な指揮者は、誰よりも先に頭を下げているのです。音楽を成り立たせるのは演奏をするあなた方で、私ではないという。私はオブザーバー、モデレーターに過ぎないという謙虚な姿勢に学ぶべきでしょう。

 一方で、リーダーシップが組織を間違った方向に導いてしまう危険性もあります。激変する環境にあって何の方向も示せない。判断自体は的を得ているが、タイミングを失っている。最悪の場合、企業倒産や失業が現実のものとなり、顧客や地域社会、金融機関の利益が損なわれ多くの人のキャリアが狂うことになります。ですから、いかにリーダーの「本質」が重要であるかお分かりいただけるのではないかと思います。

2.理想のリーダー

 皆さんには、理想とする、また目標としているリーダーはいますか?また、どんな方ですか。
 私が尊敬するリーダーの1人はアフラック米国本社の創業者であるJ.Bエイモス氏です。エイモス氏は、アメリカの建国の父、ベンジャミン・フランクリンのように「自由の追求」「楽天主義」「飽くなき探究心」「冒険心」の旺盛な方でした。この人柄に惚れ、この人のためなら命を燃やそうと多くの人の反対を押し切りアフラック創業を決意しました。そしてアフラック創業後もリーダーとしての考え方、あるべき姿について学ばせていただきました。
 私が最も学んだことは、「事業というのは人に始まって人に終わる」「リーダーが次のいいリーダーをトップに据えなければ、会社は駄目になってしまう」つまりリミットレスリーダーシップについてです。

 それにはこんなエピソードがあります。
 アフラックを創業し、当初11年間は副社長の職にありました。会社のことは社長に任せ、私は営業を強化することにあったからです。そして米国本社から年末社長に就任するように命じられ、就任する一ヶ月前、エイモス氏に訊ねられたことがありました。「社長として大切な仕事は何だと思う?」と質問されました。皆さんは何だと思われますか?私は「利益を出して本社に送金すること」としか答えられませんでした。しかし、答えは何だったと思いますか?お分かりの方いらっしゃいますか?答えは「次のリーダーを選ぶこと」でした。これには本当に驚きました。

 リーダーの仕事とは、次のリーダーを選ぶことなのです。このことは、アフラックも何人かの社長を迎えたことで実感しております。人間は、いずれ死を迎えますが、企業は、衰退することは許されません。滅ぼさせてはいけないという一心で、企業の経営者は、大きな努力をしてきたわけです。
 つまりリーダーには、企業を永遠に存在させる責任がある。そういう責任意識をもたないリーダーは、リーダーとは言えないのです。これは学校であっても同じことであります。

3.リーダーが求められる理由

 私は米国企業で長年経営を行ってきており、経団連、経済同友会、商工会議所等に所属し、多くの日本の企業のトップと接し感じたことは、リーダーの資質を持つ人が少ないということです。
 こうした危機感を抱き、10年前『リーダー改造論 21世紀型リーダーシップとは』を上梓させていただくとともに、前富士ゼロックス会長の小林陽太郎さんと日本アスペン研究所を設立しリーダー養成を図っております。

 アスペン研究所とは教養、リベラルアーツを重視し、研究・研修を実施している世界的に有名な米国の教育機関です。米国のコロラド州のアスペンでセミナーが開催されている ため、そう呼ばれています。
 私自身、79年にこのセミナーに参加し大変驚きました。なぜなら、世界中のビジネスマン、政治家、官僚、学者といったあらゆる分野のリーダーたちが集まり、古今東西の古典をはじめとする文献を読み、それについて意見を戦わすのです。ビジネス研修ではない、いわゆる人間力を養っているのです。この重要性を知り小林陽太郎さんとともに日本アスペン研究所を設立し、日本のリーダーの教育現場を提供しています。
 また、最近では、ISLの野田理事長に依頼され、こちらでもU18など社会人のリーダー養成に力を尽くしております。

 何故、私がこのように、リーダー養成に力を尽くしてきたかと申しますと、これまでの日本は、特に戦後から今日までリーダー養成に力を注がなかったことにあります。確かに戦後の右肩上がりの経済成長の中では、集団主義、護送船団方式、ボトムアップが通用し、リーダーは必要がなかった。また、必要とされなかった。しかし、バブルが崩壊し、さらには数年前のリーマンショックといった100年に一度といわれる経済危機に直面し、こうした常識が通用しくなり、真のリーダーが求められているのです。

 今求められるリーダーとは、社会に貢献するという高い志を持ち、自分の信念にそって行動する人です。こうした人材を育てるのは教育現場に他なりません。
 イギリスのブレア首相が、1997年の就任演説で「わが政府の3つの最重要課題は何か。それは、教育、教育、そして、教育だ」とし、この教育改革を実施し、教師の給与を年5%ずつ上げ、より優秀な人材を集めました。教育とはまさに人材育成に他なりません。

 教育とは英語で「エデュケーション」といい、その語源は引き出すという意味です。つまり、教育とは1人1人の個性を引き出すこと。その個性を見抜くには、皆さんが複眼的思考を持たなければ、見出すこと、気付くことができません。
 私も社内外で教育の重要性を訴えるともに、実施してまいりました。特に保険とは目に見えない商品であり、保険会社は人と紙(契約書)だけが事業を支えているのです。いかにIT化が進んだとはいえ人です。まさにどんな時代、企業であっつてもカギとなるのは人です。その人を育てるのは教育であり、自ら学ぶことしかありません。
 是非、野茂、イチローを見出し、育てた仰木監督のような目と心で、生徒を見つめ、次世代のリーダーを発掘するとともに育てていいただきたいと思います。日本の次世代は皆さんの手にかかっているのですから。

 私も微力ではありますが、今後とも様々な活動を通じ、日本の教育改革、リーダー育成に尽力してまいりたいと思いますので、本日お集まりの皆さんには、リーダーシップをとり、世界に通用するリーダーを育てていただきたいと思います。皆さんのご活躍に期待いたしております。

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