執筆・講演

平成21年度教職員等中央研修
2009年11月11日

「今求められるリーダーとは」
― 大竹の考えるリーダーの要件 ―

結論
 混沌とした世の中において、今、求められるリーダーとは「高い志」を持ち、「ぶれない信念」を持っている人であると思います。そして何よりも「人間力」を持たなければなりません。何故なら尊敬されなければ誰もついてはきません。

【テーマ1】リーダーが求められる理由
 私は米国企業で長年経営を行ってきており、経団連、経済同友会、商工会議所等に所属し、多くの日本の企業のトップと接し感じたことは、リーダーの資質を持つ人が少ないということです。
こうした危機感を抱き、10年前『リーダー改造論 21世紀型リーダーシップとは』を上梓させていただくとともに、前富士ゼロックス会長の小林陽太郎さんと日本アスペン研究所を設立しリーダー養成を図っております。
アスペン研究所とは教養、リベラルアーツを重視し、研究・研修を実施している世界的に有名な米国の教育機関です。米国のコロラド州のアスペンでセミナーが開催されているため、そう呼ばれています。
私自身、79年に、このセミナーに参加し大変驚きました。なぜなら、世界中のビジネスマン、政治家、官僚、学者といったあらゆる分野のリーダーたちが、集まり古今東西の古典をはじめとする文献を読み、それについて意見を戦わすのです。ビジネス研修ではない、いわゆる人間力を養っているのです。この重要性を知り小林陽太郎さんとともに日本アスペン研究所を設立し、日本のリーダーの教育現場を提供しています。
 また、最近では、ISLの野田理事長に依頼され、こちらでも社会人のリーダー養成に力を尽くしております。

 何故、私がこのように、リーダー養成に力を尽くしてきたかと申しますと、これまでの日本は、特に戦後から今日までリーダー養成に力を注がなかったことにあります。確かに戦後の右肩上がりの経済成長の中では、集団主義、護送船団方式、ボトムアップが通用し、リーダーは必要がなかった。また、必要とされなかった。しかし、バブルが崩壊し、さらには昨年のリーマンショックといった100年に一度といわれる経済危機に直面し、こうした常識が通用しなくなり、真のリーダーが求められているのです。

 こうした危機の時代、指導者としての政治哲学、臨機応変な判断力が国家の命運を左右します。全面戦争の拡大。増加し続ける犠牲者。国家を二分してアメリカ人同士が死闘を繰り広げた南北戦争の時代。連邦分裂といった建国以来の最大の危機に直面したときリンカンのとった行動とは?
日本アスペン研究所でご一緒させていただいている東京大学名誉教授 本間長世さんが、NTT出版から『正義のリーダーシップ』という著書にて書かれておりますので、ご興味のある方は是非お読みただければと思います。

【テーマ2】リーダーについて
 先ず、リーダーについて考えてみたいと思います。

国内外の各界のリーダー
さて、先ほどは元大統領リンカンをご紹介させていただきましたが、「リーダー」と聞いて皆さんはどなたを想像されますでしょうか。その一挙手一動に最も注目され、批判を浴びるのは米国のオバマ大統領であったり、鳩山首相ではないでしょうか。その他、経済界やスポーツ界、最近では楽天の野村監督が優れたリーダーとして話題になりましたが、皆さんの教育界ではいかがでしょうか。

リーダーシップ
                                             人間は環境に慣れると、それが当たり前だと思い込んでしまいます。危機的な状況が訪れてやっと疑問を抱くようになるのです。
 今の日本のあり方、自分が加わっている職場の現状をその目で見直してみると、これまでの見えなかったものが見えてくる。いや、見えないものを見抜く努力が求められます。
 改革すべきことは多いと思います。そのためには、力強いリーダーシップが必要になります。

リーダーシップとは、「ワンマン」「ボトムアップ」「集団主義」といったスタイルではなく「質」。今問われるべきはリーダーの行動の「本質」なのです。それによって組織、風土まで変えることができるのです。

リーダーは10年先を読み、マネージャーは今日一日の算段をする。リーダーの下す指示や命令は目先の利害に追われてはならない。組織全体を見渡し、将来のことを考える。いわば、戦略的な視点が必要なのです。
マネージャーは受け持つ部門を十分に機能させる役割を負っている。上から与えられる目標を戦術として具現化することがその役割なのです。

リーダーシップの質に左右される
一方で、リーダーシップが組織を間違った方向に導いてしまう危険性もあります。激変する環境にあって何の方向も示せない。判断自体は的を得ているが、タイミングを失っている。最悪の場合、企業倒産や失業が現実のものとなり、顧客や地域社会、金融機関の利益が損なわれ多くの人のキャリアが狂うことになります。ですから、いかにリーダーの「本質」が重要であるかお分かりいただけるのではないかと思います。

理想のリーダー
皆さんには、理想とする、また目標としているリーダーはいますか?また、どんな方ですか。
私が尊敬するリーダーの1人はアフラック米国本社の創業者であるJ.Bエイモス氏です。エイモス氏は、アメリカの建国の父、ベンジャミン・フランクリンのように「自由の追求」「楽天主義」「飽くなき探究心」「冒険心」の旺盛な方でした。この人柄に惚れ、この人のためなら命を燃やそうと多くの人の反対を押し切りアフラック創業を決意しました。そしてアフラック創業後もリーダーとしての考え方、あるべき姿について学ばせていただきました。
私が最も学んだことは、「事業というのは人に始まって人に終わる」「リーダーが次のいいリーダーをトップに据えなければ、会社は駄目になってしまう」つまりリミットレスリーダーシップについてです。

リーダーとなるために大竹が実施したこと (ヒントとしていただきたい)
回り道の人生
私は大学を卒業後、アフラックに出会う32歳まで、農業指導員、宣教師、代議士秘書、保険の営業と様々な道を目指しました。今になって思いますと、ずいぶん回り道をしましたが、結局それが一番の近道だったと思います。実はこれは、私がリーダーの資質にあげている一番目の「自分探し」であります。本当に好きで好きでたまらない仕事を見つけるということです。

リスクを請け負う−アフラック創業
日本に、アフラック創業の相談をもちかけられた35年前の米国アフラック本社は、収入保険料で全米1800社中400位程度の設立20年弱の無名の保険会社でした。日本でも35年前は、皆さんもよくご存知だと思いますが、家族にがん患者がいるだけでお嫁にいけないと言われていた時代です。こんな時代に果たして、「がん」と名のつく商品が売れるのだろうかと随分悩みました。10人に相談すると9人が反対するほどでした。創業を決意したものの、大蔵省(現・金融庁)から「がん保険」の許可が下りるまで2年半を要しました。その2年間は毎日のように大蔵省へ出向き、お願いしました。その姿をみて「大竹さんは省の人間よりも出勤率がいい」とからかい半分にいう人もいた程です。
お役所通いも大変だったのですが、いつまでたっても日本での認可が下りず、米国本社は日本進出を諦めました。そのため、米国から送金もストップしてしまい、社員の給料を払うために、それまで経営していた会社の権利を譲って得たお金と、銀行(旧第一勧業銀行)から丸裸になるくらい大借金をして乗り越えました。つまりリスクを請け負ったことです。リーダーは全ての責任を負うという覚悟が必要なのです。

私がリーダーとして行ったことは、2つあります。

一つ目はビジョンを掲げることです。
「民間厚生省となる」という明確なビジョンを打ち立てたことです。このビジョンのもと、ビジョンを目指して社員が活動し、現在のアフラックを築きました。
二つめは 全員参加によりアフラック文化を創りました。

    

【まとめ】
今求められるリーダーとは、社会に貢献するという高い志を持ち、自分の信念にそって行動する人です。こうした人材を育てるのは教育現場に他なりません。
イギリスのブレア首相が、1997年の就任演説で「わが政府の3つの最重要課題は何か。それは、教育、教育、そして、教育だ」とし、この教育改革を実施し、教師の給与を年5%ずつ上げ、より優秀な人材を集めました。教育とはまさに人材育成に他なりません。
教育とは英語で「エデュケーション」といい、その語源は引き出すという意味です。つまり、教育とは1人1人の個性を引き出すこと。その個性を見抜くには、皆さんが複眼的思考を持たなければ、見出すこと、気付くことができません。
私も社内外で教育の重要性を訴えるともに、実施してまいりました。特に保険とは目に見えない商品であり、保険会社は人と紙(契約書)だけが事業を支えているのです。いかにIT化が進んだとはいえ人です。まさにどんな時代、企業であっつてもカギとなるのは人です。その人を育てるのは教育であり、自ら学ぶことしかありません。
是非、野茂、イチローを見出し、育てた仰木監督のような目と心で、生徒を見つめ、次世代のリーダーを発掘するとともに育てていいただきたいと思います。日本の次世代は皆さんの手にかかっているのですから。

私も微力ではありますが、今後とも様々な活動を通じ、日本の教育改革、リーダー育成に尽力してまいりたいと思いますので、本日お集まりの皆さんには、リーダーシップをとり、世界に通用するリーダーを育てていただきたいと思います。皆さんのご活躍に期待いたしております。

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