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これまでの著書・コラム

コラム — 看護について

患者のための改革(「看護」1996年8月号「今月のことば」)

 「准看養成停止」を決めた准看問題調査検討会の報告書は、戦後の看護界にとって最初で最大の全面勝利と言っていいだろう。長年にわたってこの問題に取り組み続けたみなさんに心からお祝いを申し上げたいと思う。

 もちろんこの報告書ですべてが決まったわけではない。保助看法改正法案が国会で成立するまでは、祝杯を上げる気にはなれないというのが正直なところだろう。それにしても、これまで強硬姿勢一本槍だった日本医師会がよくあれだけの苦汁の決断をしたものである。その勇気は高く評価されるべきであろう。

 しかし今後、医師会の内部で現執行部に対する不満が噴出することも十分に予想される。自らの主張を貫ききれなかったことに対して軟弱だと非難され、責任問題に発展することだってあるかもしれない。そういった内部からの突き上げによって、再び強硬論に逆戻りする可能性もないとは言えない。
 現に報告書のどこにも「准看養成停止」などという表現は見当たらない。「看護婦養成制度の統合に努める」としか書かれていないのである。「努める」だけなら別に実現しなくてもいいわけだから、医師会はなお最終的なフリーハンドを握っていることになる。

 しかし、看護界はいっさい恐れることなく毅然として突き進んでいくべきである。今この時点から巻き返しを図ろうとする医師会のすべての行為は、ごり押し以外の何物でもない。どんなに知恵を絞ってみても大義名分など立つはずがないのである。医師会に不穏な動きが出て来ないかどうか、緊張感を持ってウォッチングし続けることが大切である。マスコミの目が光っている以上、医師会も理不尽なことはできないはずである。

 「看護婦養成制度の統合に努める」という報告書を「准看養成停止」という見出しで伝えたのは新聞である。医師会のごり押しは許さないぞというマスコミ側からの支援の声をぜひ感じとって欲しいと思う。

 今回の看護界大勝利の背景には、マスコミが足並みを揃えて応援団に回ったことが上げられる。各新聞の論調があれほど見事にそろうことは珍しい。それは「准看養成停止」がより素晴らしい看護につながる変革だという患者側からの期待感にほかならない。看護界は大きな責任を負ったことを自覚して欲しい。 むしろ私が心配しているのは、看護界の内部から流れを逆行させる動きが生じてくることである。新聞の投書欄などに「准看養成停止」への不安を訴える准看の声が掲載されたりしたら、世論の風向きが一気に変わってくることだってありうる。それが医師会にいいように利用されてしまう危険性は十分にあると見ていいだろう。

 当面の課題は看護職全員に今回の報告書の持つ意義を正しく理解させるように徹底させることである。准看問題は歴史的にもさまざまな複雑な影を引きずってきただけに、非常に誤解されやすいテーマである。しかも今回決まったのが「准看養成停止」であるだけに、さらに誤解されやすさは高まっている。

 これまで准看制度廃止一本で闘ってきた人には釈然としない気持ちが残るかもしれない。しかし、看護界が若干の譲歩をしたという印象を医師会に与えられたことが、今回の合意形成につながったことを強調しておきたい。「准看養成停止」は実質的に准看制度廃止につながる大改革であり、これ以外の現実的解決策はありえないと私は改めて断言する。

 私もこの問題に取り組んで6年になるが、最後の最後の仕上げがうまくいくことをドキドキしながら見守っている。私はこの変革が単に過去を清算するだけのものではなく、未来に向けて新しいナース像を作り上げるきっかけになるものだと考えている。と同時に、その作業の中から日本の医療福祉の新しい在り方も見えてくるにちがいないと思う。これからの時代のナースの使命は重大である。

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