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CS放送の医療福祉チャンネルでの「黒岩祐治のメディカルリポート」は、前回書いたようなハプニングもありましたが、ようやく第一回目の放送を迎えることができました。結局、精神科医で、作家でもある和田秀樹さんにレギュラーコメンテーターをお願いすることにしました。
和田さんは私の中学・高校の後輩でもありますが、今は年間50冊も本を出版しているという超売れっ子作家でもあります。年間50冊というと、毎週新刊が出ているということですが、どうしてそんなにたくさん書けるのかって不思議に思いますよね。そしたら、たくさん本を書くにはどうすればいいかって本まで書いちゃうんですから、脱帽です。
ところで、番組の第1回目に選んだテーマは「さまよえる医療難民」です。つまり、重症患者でありながら、次々に病院を変わることを余儀なくされる患者さんの実態を取り上げました。重症患者が病院をたらいまわしされるというショッキングな現状です。
きっかけは私の元へ届けられた一通の手紙でした。視聴者のみなさんから寄せられるメールや手紙はしばしば私に取り組むべき課題を与えてくれます。そもそも私がナースの問題に取り組むきっかけになったのも今から13年前にいただいたナースからの手紙がきっかけでした。黒田さんという女性から寄せられたその手紙には、パーキンソン病の疑いと診断された72歳の母親が10ヶ月弱の間に病院を5ヶ所も転々とさせられた経過が記されていました。
「なぜ、症状が安定していない患者を介護専門病院に追い立てるような事をするのでしょうか?母本人も大変気に入っていて、治療も効果が上がっていた最初の総合病院に、せめてもう少し落ち着くまで入院させていただける制度に、なぜ変えられないのでしょうか?」
黒田さんの母親は昨年の7月に都内の総合病院に入院しましたが、49日で退院を迫られ、在宅に切り替えました。症状も改善してきていたので、もう少し入院を続けさせたいと家族は望んでいたのですが、聞き入れられませんでした。やはり、在宅はまだ早すぎたのか、母親の容態は悪化してしまい、19日後、再び、元の病院に入院することになりました。すると、みるみる症状は改善し始めました。クスリも合っていたようだとホッとしたのもつかの間、今度はかなり強い調子で転院を迫られました。
「初めに入院期間ありきというその姿勢が納得できませんでしたね」黒田さんはやり切れぬ思いを抱きながらも、必死で独自に転院先の病院を探しました。そこは介護保険適用の療養型の病院でした。気持ちよく受け入れてはくれたものの、そこには神経内科の専門のドクターもいませんし、ナースの数も少なく、母親が必要とする医療を受けられるような環境ではありませんでした。案の定、母親の容態は一気に悪化しました。黒田さんはせめて前の病院で使っていたクスリを使ってもらえないかと訴えましたが、「そんな高価なクスリはうちでは使えない」と断られました。
98日間入院し、11日間だけ他所の病院に検査入院、また再び、戻りました。実は黒田さんの母親はパーキンソン病と確定診断されていないことで、診療報酬の特別扱いさえ受けられない状態が続いていました。せめて、そのハンディだけでも克服できないものかと、いろいろなツテを頼って相談し、16日後、ようやく受け入れ先の一般病院を見つけることができました。しかし、ここも1ヶ月という限定付きでした。
いったい何ゆえにこんなに病院を転々とせざるをえないのか、それはひとえに診療報酬制度の問題です。つまり、急性期の一般病院では入院期間に応じて、14日まで、30日まで、90日までと診療報酬の点数が激減していくシステムになっています。91日以降も入院している患者がいれば、出来高部分を除いても病院にとって一日、6000円もの減収になるのです。しかも病院の中で一人でも長期入院している患者がいると、その病院の入院患者全体の平均在院日数が長くなります。そうなると、点数の基準そのものがさらに引き下げられるために、病院にとっては長期入院患者は経営上、迷惑な存在になってしまうのです。
病院が経営上うまくやっていくためには、入院14日までの急性期の患者さんをどんどん受け入れ、検査や手術を積極的に行い、次から次へと退院させていくことです。それが、最も合理的となるようなシステムになっているのです。そもそも日本の病院の在院日数は長すぎることから、それを減らすことが国家的目標とされてきました。ですから、こういう診療報酬システムになっているわけです。基本的な方向性としては間違ってはいないでしょう。しかし、現実を直視すると、黒田さんのようなケースが出てくるのです。
和田秀樹さんは指摘します。
「急性期の病院から療養型に移ったとき、医療の質がガクンと落ちてしまうんですが、その落差が激しすぎるんですね。その中間的な施設が必要なのではないでしょうか。また、若い人は急性期の病院で、短い入院期間の中で基本的な治療が終わることが多いんです。しかし、高齢者はそうはいきません。治療には時間がかかるし、合併症もおきやすい。まだまだこれから治療が必要だという段階で、病院を出されてしまうんですね。基本的に若い人も、高齢者も同じ基準でシステムが作られていることが問題なんです」
また、和田さんは黒田さんの母親がパーキンソン病の疑いということで、確定診断がずっとされないままで、それにより特例措置を受けられなかったことについても、問題点を指摘します。
「医療の現場にいる人が診療報酬の仕組みをよく分かっていないんじゃないですか」
どんなシステムにも完璧ということはないでしょう。しかし、日本の今の診療報酬制度は、病院がいかにして在院日数を減らすかという視点で作られたものであって、患者の目線で作られたものでないことだけは確かなようです。システムの壁に阻まれて泣いている患者さんの声に耳を傾けながら、いかにして変えていくべきなのか、この問題をまた別の視点からさらに掘り下げていきたい思います。