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コラム — NURSE SENKA

「NURSE SENKA」2005年 3月号
障害者支援費が受けられなくなる財政支援制度の実態

お金がなくて最も困っている患者が救われない
 昨年末、国で介護保険制度の見直し作業が進んでいた頃、ALS患者らの障害者団体は国会に向けて、請願デモを行いました。障害者支援費制度が介護保険に統合されてしまうことへの反対行動でした。今回の番組では介護保険制度と障害者支援制度の2つの仕組みで支えられている患者の財政支援制度の実態を取り上げました。
 支援費というのは重度の障害者に対して自治体から支払われるお金で、財源は100%が税金です。それに対して、介護保険の財源は国民が支払う保険料と税金が半々となっています。介護保険はケアマネジャーが要介護度を判定し、それに基づいて支援の内容が決められます。ところが支援費の場合は、支援の金額を決める明確な規準がありません。それによって、信じられないような矛盾が生じていました。
 東京の荒川区に住むALS患者のAさんは、月に介護保険で114時間、支援費で400時間、合わせて514時間分のサービスを受けていました。これにより、夜は看護学生が有償ボランティアとして痰の吸引などを行っていました。ところが同じALS患者なのに、海老名市のBさんの場合は介護保険で34時間のサービスを受けているだけで、支援費はゼロ、家族がすべての面倒をみていました。呼吸器を装着して二十数年、30分に1回ずつ痰の吸引を24時間し続けなければならない過酷な介護を、ほとんど家族だけで行ってきたのです。
「私は介護だけで人生が終わってしまうんでしょうか。患者だってただ生かされているだけでなく、楽しみも欲しいし、生きていてよかったと思いたいですよね」
 その悲痛な声には返す言葉もありませんが、どうしてこのような差が生じているのでしょうか。どうしてBさんはもっと多くのサービスを受けることができないんでしょうか。
 支援費を受け取るためには、介護保険で受けられるサービスをすべて受けることが前提となっています。支援費は税金がそのまま使われるわけですから、まずは介護保険でというのは当然といえば当然です。しかし、介護保険はかかった費用の1割を個人で負担しなければなりません。介護保険を目いっぱい使うと、だいたい月35万円くらいになりますから、3万5000円は個人負担しなければならなくなります。
 ところが、Bさんのように一家の大黒柱本人が患者であって働くことができず、家族は付きっきりの介護を余儀なくされるという状況では、月3万5000円を支払うというのは負担が重すぎるのです。すると、介護保険を使いきれないために支援費も使えないということになるのです。要するに、お金がなくて最も困っている患者は救われないような仕組みになっているのです。

支援費の決定基準があいまいなため自治体で差が生じる
「地方の患者さんからみると、東京はなんて恵まれているんだろうって思われるでしょうね」
 ALS患者の会の川口有美子さんは言います。しかも、取材を進めると同じ自治体でも患者によって、受け取る額に大きな差があることがわかってきました。
 船橋市のALS患者Cさんは当初126時間分の支援費を受け取っていましたが、それでも家族の負担が大きすぎるので、もう少しなんとかならないかと役所にねじ込みました。すると279時間まで認められることになりました。さらに粘った結果、312時間まで広げられることになりました。
「まさに膝詰め談判だったんですが、粘り勝ちですね」
 Cさんの家族は語ってくれました。家族の努力によって報われることになるというのは悪いことではありませんが、どこか釈然としません。支援費を決める明確な基準がないため、現場の担当者の裁量に任されているのです。粘り強く頑張って交渉できる強い家族がある人はいいですが、そうでない人は泣き寝入りするしかないのです。
「声の小さい最も弱い患者は救われないんです」
 川口さんは矛盾を指摘します。支援費のこういったあいまいさをなくすために出てきたアイデアが介護保険への統合です。しかし、これまである程度の支援費を受け取っていた患者は、統合によってサービスが激減されることは間違いありません。ALS患者の場合には本来は24時間フルタイムのサービスが必要です。支援費をたくさん受け取っていたといっても、とても足りないのが現状なのです。

重度の障害を抱えるALS患者には特別な支援が必要
 財政的には青天井というわけにはいかないけれど、膨大な費用がかかるという現実は受け止めざるをえません。今回、介護保険への統合は見送られたものの、どこでどうやって線を引くかについて、厚生労働省大臣官房総務課の伊原和人企画官は改革のグランドデザインとして次のように語りました。 「きわめて重度な障害を抱えるALS患者のような場合には、(決まった金額を渡して)包括的なサービスが受けられるようにする仕組みを考えています」
これに対して、川口さんは次のような不安を口にしました。
「包括といっても。具体的にどのくらいの金額になるのかがわからないと判断できませんよね」
 立命館大学の立岩真也教授は次のようにコメントしました。
「包括というのもひとつのアイデアであることは間違いありませんが、それで患者さんが生きていける水準であればの話です。そもそも予算の制約というところから議論をすると、抑えるところは抑えるということになってしまいます。でもそれは根本的に違うのではないでしょうか。患者一人一人に合った支援の形を考えるということが大事だと思います」
 人工呼吸器を装着したALS患者というのは、やはり特殊な例だと言わざるをえません。他の重度障害の患者と同じ仕組みの中でつじつまを合わせようとすると、どうしても無理が生じてしまいます。そういう患者は思い切って特別扱いにして、完全24時間フォローできるようにするべきなのではないでしょうか。公平も大事でしょうが、大胆にメリハリをつけることも、血の通った行政には必要だと私は思います。

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