HOME > これまでの著書・コラム > NURSE SENKA

これまでの著書・コラム

コラム — NURSE SENKA

「NURSE SENKA」2005年 5月号
フィリピン人ナースの受け入れを起爆剤として医療・看護を変えられるか

日本での看護体験をベトナム帰国後看護向上に生かす
 日本にフィリピン人ナースがやってくることが正式に決まったということを皆さんはすでにご存じですよね?
 日本とフィリピンとの間で行われていたFTA(自由貿易協定)交渉が昨年の暮れにまとまり、日本政府はフィリピン政府の強い要望を最終的に受け入れたのです。
 これは日本の看護界にとっても革命的なことです。今回は最近のホット・イッシューとしてこの問題を取り上げました。
 これまで日本の病院で外国人のナースが全く働いていなかったのかといえば、そうではありません。私たちはベトナム人ナースが働いている千葉の三枝病院を取材しました。トゥ・ヒエンさん(24)は日本に来て6年になります。日本の看護学校で教育を受け、日本の看護師の国家資格を取りました。ベトナム人ではありますが、あくまで日本のナースです。今度、フィリピンからやってくるナースはフィリピンの国家資格をもったナースですから、ここが一番違うところです。
 トゥさんは3年の看護教育を日本語で受けただけあって、日本語は完璧でした。それでも、ベトナム人というだけで毛嫌いする患者さんもなかにはいるそうです。
「時々、受け入れが難しい方がいらっしゃってね。あなたじゃ話は通じないのよなんて、言われたりするんです。最初はちょっとつらかったですけどね」
でも、私たちのインタビューにこんなふうに答えてくれた女性患者さんもいました。
「いやあ、優しいですし、よく気を使ってくれますよ。ああいう人、お嫁さんにもらったらいいね、なんて言ってるんですよ」
 ただ、このベトナム人ナースはいつまでも日本で働くわけではありません。4年たったら母国に帰らなければなりません。もともと彼女たちは日本のために働きに来ているわけではなく、ベトナムの看護レベルを上げる目的で来ている人たちだからです。日本の看護教育を受け、実際の日本の医療を体験し、その経験をベトナムの看護向上に活かしていくという国家的使命を担って来ているのです。

日本語のマスターと日本の国家試験に合格することが大前提
 今度のフィリピン人ナースはそうではありません。彼女たちはフィリピンで学んだ看護の知識と実践を日本の医療現場で活かし、日本人のために働くことを目的にやって来るのです。
 実は受け入れ人数など具体的なことはまだ決まっていませんが、ようやく概要が見えてきました。日本の国家試験に合格することが大前提となっています。そのため来日した後の語学研修の猶予期間として3年間が設定されています。これももし、日本語が完璧であれば、いきなり試験を受けることも可能になっています。
 当初いわれていた滞在期間の限定は、資格を3年ごとに更新できるようにしたことからなくなり、永住も可能になりました。これはただ単なるナースの問題にとどまらず、熟練外国人労働者受け入れ、あるいは移民問題に一石を投じる画期的なことだといえそうです。
 日本看護協会は当初、受け入れ反対の姿勢を示していました。しかし、政府間交渉で国策として譲らなければならない状況となったことから、方針転換に踏み切りました。
 ただ、岡谷恵子専務理事は心配されることとして、次のようなことを指摘しました。
「フィリピン人ナースが給与面で差をつけられやしないかどうか。それがまた、日本人ナースの給与レベルを下げようという話につながりやしないか、そういうところは心配ですね」
 そういうことをなくすためにも、フィリピン人ナースも看護協会に入会してもらって、日本のナース全体で支えていくつもりだと話してくれました。

アメリカの医療を支える優秀なフィリピンの大卒ナースたち
 私は昨年の夏、マニラの看護教育の現場を取材したことがありました。実はフィリピンの看護教育はすべて4年制の大学教育なのです。まだ3年課程の専門学校が中心の日本よりも進んでいるのです。優秀そうな学生たちが真剣な眼差しで学んでいる姿を見て、私は彼女たちが入ってくることで日本の看護は必ずよくなると確信しました。
 ちなみにその大学の卒業生の9割は海外で働くことになるそうです。彼女たちは国際舞台で力を発揮するために、フィリピンの国家の威信をかけて養成されているのです。アメリカの医療は優秀なフィリピン人ナースなしでは支えられないとまでいわれています。一時、フィリピン人ナースが来たら日本の医療の質が下がるなどという声を聞いたこともありましたが、それは実態を知らない妄言です。日本のナースこそ、うかうかしておれない状況になると思ったほうがいいでしょう。
 歴史は動き始めました。もはやことの是非を論じる時ではありません。フィリピン人ナースが入ってくることを起爆剤として、どこまで日本の医療・看護を変えられるか、看護界全体が問われているのです。

» コラム一覧へ

リンクサイトマップ