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これまでの著書・コラム

コラム — NURSE SENKA

「NURSE SENKA」2005年11月号
患者起点で統合的に柔軟に発想することが求められている

まともな治療といかがわしいものが混在する統合医療
 西洋医学とさまざまな民間療法を組み合わせて行う「統合医療」は、今の医療システムの下では基本的には認められていません。しかし、医師の中には独自の工夫をしながら挑戦している人たちもいます。
 矢追博美医師はアレルギー治療のための減感作療法を独自にアレンジした「矢追インパクト療法」を開発し、多くの患者を集めています。もともとは岩手県で開業していましたが、全国から集まる患者のために、東京にも診療所を開きました。保険適用にならず、自由診療で行っています。
 減感作療法とは、アレルギーの原因と思われる物質のアレルゲンエキスを薄めた液を少しずつ注射し、身体に抵抗力をつけていくものです。矢追さんはこれを1万倍に希釈した液を数箇所に注射することで、大きな治療効果を確認できたのだといいます。
 一時は頭髪がすべて抜け落ちるほどの重症だったアトピー性皮膚炎の30歳の男性は、このインパクト療法のおかげで普通の肌を取り戻していました。喘息の60代の女性患者は兵庫県からわざわざ東京までこの治療を受けに来ていました。
「初めはこんなん効くんかなと思ってたんやけど、上向きに寝ることもでけへんかったことからすると、今は夢のような感じですわ」
「矢追インパクト療法」は西洋医学の権威の世界からは評価の対象にすらされていませんが、信奉者のような患者がいることは事実です。矢追さん本人が「どうしてこんなに効くのか分からないんです」と言います。しかも何に効くのかという問いに対して、「老人の認知症にまで効果がある」とまで言われると、私自身ですら番組で扱うことに対してためらいを覚えました。
 実はこれは統合医療を語る上で、避けては通れない問題です。つまり、まともな治療といかがわしいものとが混在しているのです。それを峻別することができるかどうか、それが統合医療を通常の医療に一般化できるかどうかの最大の課題です。

アメリカでは代替医療の有効性のエビデンスの動き
 新宿の丹羽クリニックの丹羽正幸院長が実践している“統合医療”は、少なくとも私の目から見て、信頼感のある新しい医療のカタチを指し示しているものでした。丹羽さんは外科医として16年間にわたって臨床にあたってきた経験をベースにしながら、漢方などを独自に研究し、実際の治療に活かしてきました。
 治療はまず音楽療法から始まります。音楽を聴いた前後で、唾液中に含まれるIg-Aという免疫力を測るデータを比較します。
 アトピーに30年も悩んできた女性がこの治療を受けていましたが、彼女は4.5mg/qから6.4mg/qに上昇したそうです。正常の値は3mg/qで、この女性の場合は普通以上の免疫力を持っていることが分かりました。つまり、もともと自分で治るチカラがあったにもかかわらず、ステロイドに頼った治療法が間違っていたから治らなかったということだったのです。
 彼女はその上で、身体のねじれを矯正するための丹羽式正體や、皮膚の代謝をよくして免疫力を高める温熱療法を受け、漢方薬やビタミンを処方されていました。体質改善を目指しているのだといいます。その成果は私たちの目にも明らかでした。
「アメリカでは国民が代替医療のために、医療費と同じくらいの金を医師の知らないところで使っていました。そこで、国がこういった代替医療にも科学のメスを入れようということで、エビデンスを集め始めています」
 東京衛生病院健康増進部の水上治部長は語りました。日本は今もって西洋医学を絶対視する傾向が強いからでしょうか、代替医療の有効性のエビデンスを集めようという動きは本格化していません。
 和田秀樹さんは指摘します。
「高齢者になるといくつもの病気を抱えていることが多いんですね。血圧も高い、血糖値も高い、心不全もある……。西洋医学のやり方だとそれらの一つひとつにクスリを出さなければならないんです。本当は体質改善の方が有効なんですけどね。そういう意味で、代替医療は大事だと思うんですね」
 病気をたたくのではなく体質そのものを変えるとか、病巣ではなく体全体を診るという視点は西洋医学にもっとも欠けているところではないでしょうか。内科、外科、精神科などと細分化された専門性が逆に人間全体を診る目を失わせているのかもしれません。
 胃が痛いと言えば内科医は胃そのものを診て、検査してデータを見つめます。しかし、患者さんをじっくり診ていると、身体がゆがんでいることもよくあるようです。つまり胃が十分に動けないようになっているから痛いのであって、いくら痛み止めを飲んでも、胃そのものを治療しようとしても無駄なことです。その場合、骨格を矯正することが最大の治療法だと分かるのです。

統合医療が進むドイツでは医師にハーブの講義が必修
 水上さんは面白い指摘をしてくれました。
「ドイツは統合医療が進んでいますよ。医学部ではハーブの講義が必修となっているんです。しかも日本と違って、医師の資格は更新制となっていますから、ドイツの医師はハーブについてとても詳しいんです」
 日本の医療はドイツ医学を輸入したところから始まったはずでしたが、どうしてこのような違いが出てきたんでしょうか? ドイツ医学が変容を遂げてきたのに、日本は過去の医学体系にこだわり続けたということなんでしょうか。水上さんは次のように答えてくれました。
「もともとヨーロッパ人はハーブが好きなんです。日本はドイツ医学の表面的なことを取り入れすぎて、ドイツの本来の医療を見ていなかったんじゃないでしょうか」
 日本でも今頃になってハーブが注目されています。しかし、それは病院の外側の話であって、病院でハーブが処方されるわけではありません。
 このように患者起点の医療のあり方をじっくり考えてみると、いかに医療の世界の発想法が頭デッカチになっているかがよく分かります。患者にとって本当にいいものは何か、役に立つものは何か、まさに統合的に柔軟に発想することが求められているのではないでしょうか。そのきっかけが統合医療の実現だと思うのです。

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