HOME > これまでの著書・コラム > NURSE SENKA

これまでの著書・コラム

コラム — NURSE SENKA

「NURSE SENKA」2006年 4月号
西洋医学だけでは届かないところをカバーする“統合医療”

気功で病状改善、ストレス解消になると患者さんには好評
 埼玉県川越市の帯津三敬病院は“統合医療”を実践している病院として有名です。帯津良一名誉院長はかつて東大附属病院第三外科で働く外科医でしたが、「西洋医学には届かないところがある」という思いから、統合医療に目を向け始めました。今から26年前のことです。
 帯津さんはまずは中国と日本の医療を合わせることができないかと考え、中国に見学に行きました。
「中国医療とは漢方や鍼・灸と思っていましたが、気功こそがエースだと知りました。あとは食養生ですね」
 そして帯津さんは1982年には西洋医学以外の代替医療も併せて実践するために、自ら病院をつくりました。他人の経営する病院だと自由な挑戦ができなかったからだといいます。病院の一角には畳敷きの道場を作り、患者さんに自ら呼吸法を教えました。
 気功には呼吸法などの内気功と、手かざしによって治療を行う外気功があります。みんなで歩きながら呼吸法を練習したり、太極拳を習ったり、道場には楽しそうな笑い声が響いています。「頭の中が無になってきて、体全体がポカポカしてくるんですね。血のめぐりがよくなってくるからでしょうか」。患者さんの評判は上々です。
「安定した心の状態を得ることによって、病状の改善だけでなく、ストレス解消になるんですね。緩和ケアはあきらめないことが大事。気功や漢方など戦術には事欠きませんから、一歩でも前進するよういろいろやってみるんです」と気功の指導にあたっている中国室のスタッフは言います。そのスタッフの一人、大野聰克さんは元患者です。平成3年に直腸がんが見つかりましたが、すでにリンパや肝臓に転移していました。手術をして、人工肛門を作りましたが、肝臓はもう治らないと医師から宣告されました。ところが、この病院で気功などの代替医療を併せて行ってきた結果、平成5年にはデータはすべて正常値になりました。肝臓がんも消えたのだといいます。
「これ以上、悪くならなければ死ぬわけがないと思ってやってきたんです」
 大野さんは自らに起きた貴重な体験を生かすために、呼吸法などを専門的に勉強し、今はスタッフとして指導する側に回っています。

免疫力を高める効果は実証されているがエビデンスはすっきりしない
「気功に治癒効果があるということを認めている医師はいませんよ」
 山王病院呼吸器センター長の奥仲哲弥医師はばっさり切って捨てました。
「ただ、少なくとも身体に悪いことをしているわけではありませんね。上手な呼吸法によっていいホルモンが出ているだろうと思います。それに帯津先生を頼ろうとするいい意味での宗教的な効果というのもあるんでしょうね」  帯津さんは言います。
「気功は中国3000年の歴史の中で養生法としては確立しています。しかし、がん治療に効果があるというエビデンスはすっきりしたものはないんですね。副交感神経に有意に作用し、免疫力を高めるのに効果があるということまでは科学的に証明されているんですけどね」
 奥仲さんは「天寿がん」について紹介しました。
「本人は認識していなかったんだけど、死後解剖してみるとがんだったという天寿がんというのもあるんですね。ですから、がんがあっても共存して元気に過ごしている人もいらっしゃるんです。ですから、漢方や気功が効いたかどうかは分からなくても、手助けをしたということは考えられるんじゃないかとは思います」
 この点については帯津さんも否定はしませんでした。
「治す、治さないではなく、現状維持か、一歩だけ前に進めるという発想も大事なんです。私が長年実践してきて、ほんとうにがんが消えたというのは2〜3例しかないんです。がんが消えなくても、拡がらない、大きくならない。そのためには代替医療というのは効果があるって思うんです」
 統合医療を考えるとき、科学的エビデンスの脆弱性がいつも越えられない壁になってしまいます。奥仲さんはこの点について次のように言いました。
「エビデンスのない治療は怪しい治療だといわれても仕方ありません。確かに治療には根拠がなければいけないことは間違いありません。しかし、ガイドラインに沿った治療というのもあるんですね。ガイドラインには推奨グレードのランクがあるんですが、気功というのは今は対象にもなっていないんですね。西洋医学とは哲学が違うわけですが、これによって助かる人もいるというのなら、科学的根拠をどこかに見つけていくということが大事だと思います」

非科学的とするのではなく西洋医学との歩み寄りが必要なのでは
 西洋医学にはガイドラインがありますから、患者は全国どこへ行っても同じような治療を受けることができます。しかし、現状では気功といってもどういうレベルのものなのか、判断する基準がありません。患者としてはどう考えればいいのでしょうか。帯津さんは言います。
「代替医療がエビデンスに乏しいのはやむを得ないことです。でも、人間は科学だけで生きているのではありません。いのちそのものだって、科学ではよく分からないのではないですか? それなのに、病気になって急に科学、科学というのはおかしいんじゃないでしょうか。代替医療は非科学的だから取り上げないというのではなく、かといって過大評価するのでもなく、西洋医学との間で歩み寄ることが必要なのではないでしょうか」
 患者の視点に立って考えてみたとき、統合医療は大きな意味を持つものだと私は思います。しかし、今の医療界では、ほとんど一顧だにされていないというのが現状です。西洋医学の中だけで論じることが当然だと思い込まれているからです。いかに患者の視点で組み立てられた医療ではないかを象徴しているかに思えます。
 奥仲さんは立場上、西洋医学から見た統合医療への疑念を語ってくれましたが、ほんとうのところではかなり理解のある医師だったようです。それは彼自身、腰痛の持ち主で、あらゆる代替医療を試してきたこととも関係あるようです。ある大学病院の外科部長が密かに指圧やカイロプラクティックに通っているという話を、私も聞いたことがあります。医師は少なくとも全否定だけはしないで、少しでも歩み寄る努力をしてほしいと願う次第です。

» コラム一覧へ

リンクサイトマップ