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これまでの著書・コラム

コラム — NURSE SENKA

「NURSE SENKA」2007年 4月号
女性医師の問題解決には魅力ある、個性あふれる病院づくりから

「女性が働きやすい病院」の第三者評価認定はいまのところ3病院
 職場を離れざるを得ない女性医師の問題をさらに掘り下げてみると、日本の病院の抱えるさまざまな問題が浮かび上がってきます。
 女性医師の働く環境がどこまで整備されているかは、病院によって大きく違っているようです。大阪厚生年金病院は165人の医師のうち女性医師が44人もいることでも明らかなように、支援システムは非常に充実しています。フレキシブルな勤務体制、残業・当直の免除、産前産後休暇と育児休暇の保障、病児保育室の設置、院内コンビニエンスストアの設置など、実にきめ細かいメニューが並んでいます。
 清野佳紀院長は言います。
「家にこもっていた女性医師でも子育て支援をきちんとすれば働けるんです。人件費はアップしましたが、その何倍も収益を増やすことができました」
この病院はNPO法人ejnetから、女性医師に優しい病院として認定を受けています。NPO代表を務める医師の瀧野敏子さんは言います。
「トップの意識が重要なんですね。この病院では院長先生が自ら現場に行って、妊娠した女性医師や子育てをしている女性医師に直接話を聞いて対応されたんです」
 ejnetでは「女性が働きやすい病院評価機構」の評価項目を独自に作っています。子育て支援策はもとより、復帰支援プログラムがあるか、セクシュアルハラスメント対応はできているかなど、女性ならではの視点からの基準となっています。それに基づいて書類審査、ヒアリングなどを経て、評価委員会で認定病院を決めます。瀧野さんは言います。
「女性医師が働きやすい病院というのは、同時に全職員が働きやすい病院でしょう。患者さんにとってもこまごまとした配慮が行き届いている良い病院ということになると思いますよ」
 認定を受けた病院は認定証を院内の表玄関に飾り、ホームページにも掲載しています。病院にとっては貴重な第三者評価であり、経営改善に向けたインセンティブになっているようです。ただ、まだ認定を出した病院が3つしかないということからわかるように、ようやく始まったばかりの草の根的運動の段階といえそうです。

子供の学校、教育—−地方より都会を希望する女性医師
 一方、官の側の女性医師対策ですが、独立行政法人国立病院機構の近畿ブロックでは「ママさん医師確保対策」を始めました。近畿ブロック事務所の陳若富医療課長は言います。
「現場復帰を希望するママさん医師と人材を求めている病院をマッチングさせようと始めました。近畿ブロックだけで20の国立病院がありますから、広域的に対応すれば効果があるのではないかと考えました。しかし、なかなかマッチングがうまくいかない。そもそも職場復帰を目指している女性医師そのものが本当はそんなにたくさんいないのではないかという気持ちになってしまうんですよね」
 今のところ、企画倒れになっていると言わざるを得ません。広域で対応しようという試みがうまくいかないのは、実は多くの女性医師が地方を敬遠するからのようです。地方の病院の女性医師確保は都会とは全く状況が違っています。国立病院機構舞鶴医療センターの平野伸二院長の話を聞くと、絶望的な気持ちにさえなってしまいます。
「女性医師確保のためになんとか最大限の努力をしているんですが、力不足なんです。病院としてはやれることはなんでもやりましょうということなんですが……。都会に比べれば、子供の学校、教育の面でもハンディがあります。自分の子供も医師にしたいと思う女性医師が多いですからね」
 神経内科に勤める諌山玲名医師は女性医師の本音を語ってくれました。
「病院のなかでは大目に見てもらって勤務面でもいろいろと配慮してもらってはいるんですが、それでも子供はほったらかしの状態です。まだ小さいからいいですが、これから先のことを考えると、このまま続けていくのは難しいでしょうね」
 この医療センターでは産科病棟が閉鎖に追い込まれました。3人いた産科医のうち、2人は子育て中の夫婦でした。奥さんの医師が子育てのために退職したところ、夫の医師が過重労働になり、結局、夫婦揃って都会の病院に移っていきました。1人残った医師だけでは対応できず、全員退職してついに病棟閉鎖に追い込まれたというのです。

医師の専門職として技能を磨きたいというニーズに応える方策を
 大阪厚生年金病院の清野院長も言います。
「私たちの病院が女性医師への支援をすることで女性医師が集まってくるのは都会だからでしょうね。地方で働いてもらうのはたいへんですよ。女性に地域の医療崩壊を食い止める切り札を期待するのは難しいのではないでしょうか」
 瀧野さんは言います。
「確かに子育て中の女性医師を地方にというのは難しいでしょうね。子育て前の修業時代か、または期限付きで行ってもらうかなどではないでしょうか」
問題は地域の病院をどう守るかというところに行き着きます。地方の病院が女性医師を引き付ける力をもつことは不可能なんでしょうか? 和田秀樹氏は言います。
「例えば沖縄の病院ではアメリカの病院と同じような研修制度を持っているところがあります。それはまさにそこでなければ体験できないシステムですね。それを体験したいがためにわざわざ沖縄の病院に勤めるということはあるでしょうね」
 地域ならではの個性ある病院、その地域でなければ実現できない特色ある病院であれば、女性医師も来るかもしれません。女性医師もただ単に母親としてだけの都合で職場を決めるわけではないでしょう。瀧野さんは指摘します。
「女性医師も医師ですから、専門職としての技能を磨きたいという強烈なニーズがあるんです。それに応えてくれるような病院であれば、場所がどこであれ、行ってみたい、働いてみたいと思うのではないでしょうか」
 瀧野さんは自分の母親も医師だったそうですが、子育てのために職場を離れざるを得なかったことを悔いていたといいます。それが彼女がejnetを始めたきっかけだったそうです。親子2代にわたって抱えてきた問題の解決策は、結局、女性医師にも配慮の行き届いた魅力ある、個性あふれる病院をいかにつくるかにかかっているといえそうです。

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