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これまでの著書・コラム

コラム — NURSE SENKA

「NURSE SENKA」2007年 5月号
「7対1看護」の混乱は一時的なこと、看護職の抱える問題点を総体的に改革することが喫緊課題

7対1の実現に向けて看護師の引き抜きや新卒学生の奪い合いが
 平成18年の診療報酬の改定で看護師の配置基準が改められましたが、このことによって全国各地の病院から看護師不足に陥ったという悲鳴の声が上がっています。いわゆる「7対1問題」です。この改定は日本看護協会が強く求めてきて実現した改革でした。それなのにどうしてそのような逆効果ともいえる状況になっているのでしょうか? これは改革そのものが間違っていたということなんでしょうか。
 これまでの急性期の入院患者に対する看護師の数は最も高くて、10対1、すなわち患者10人に対して看護師1人でした。それを7対1にしたのは、看護師の過重労働を和らげ、患者にとって手厚い看護を実現するための方策でした。この基準を満たせば高い診療報酬を得られるように改定されたのです。
 この結果、想定していなかったような事態が進行しました。7対1を確保しようとたくさんの病院が一斉に行動を開始したのです。そして看護師の引き抜きや新卒看護学生の確保に躍起になりました。
 私たちが取材した島根県西北部の県立看護学校でもこんな声を聞きました。
「これまでにないほどの大量の募集案内が届いただけでなく、わざわざ県外から募集要項の説明においでになったんです。特に驚いたのは東大病院からこんな地方にまで来られたんですよ」
 東大病院は新たに300人の看護師を募集しました。東大病院が7対1を取るためには130人の新規採用が必要でした。もともとICU病棟を増設する計画があって、そのために50人を増やす予定でした。毎年120人の退職者が出ることを見込んで300人の募集になったのです。この時代に300人を大量採用することはなかなかたいへんな仕事だったようですが、それだけにいろいろな噂話も飛び交いました。極めつきは看護師のために六本木のマンションを提供するといううまい話で看護師を集めているというものでした。
 東大病院の榮木実枝看護部長は言います。
「噂話に尾ひれ背びれが2枚、3枚と付きましてね(笑)。ただ、大学病院が7対1を取ることをこんなふうに否定的に言われてしまうことは心外ですよね。あの配置基準は急性期医療を評価するためのものですから、大きな病院ほど必要数が多くなるというのは当然なんですから。ただ、急性期医療を担うのはどういう病院かという基準を作らなかったことが問題だったのではないでしょうか」

急性期医療のみならず中小を含む予想外の病院が殺到して混乱
 7対1実現のために強力なリーダーシップを発揮してきた日本看護協会の久常節子会長はこの混乱について次のように語りました。
「わが国の看護師の配置基準は先進国の中で最下位でした。そのために医療事故は起こりやすいし、夜間にいくらブザーを押しても看護師は来てくれない。夜は40〜50人の患者に看護師が2人しかいない、それが最高でも10対1という看護師配置の現実でした。それを改善することが看護協会の悲願だったのです。ただ、病院は数年かかって7対1を実現していくだろうと思っていたんですが、予想外にも、5カ月で16%を上回る病院が殺到したために混乱が起こったようです」
 全日本病院協会の木村厚常任理事は言います。
「制度自体はいいんですが、急にやりすぎたんですね。中医協がいきなり改正案を出してきた。そこで集めやすいところに集まって、集まりにくいところには集まらなくなって、格差がついてしまったんです。本来は病院の機能とか患者の質によって緩やかに変わっていけばよかった。それが雪崩に押しつぶされて悲鳴を上げているというのが現状でしょう」
 本来7対1看護は急性期医療のための改革でしたが、診療報酬のうまみに誘われて他の病院も獲得を目指しました。それも想定外のことでした。

年間10万人が辞めるといわれる環境をいかに改善するか
「東大病院をやり玉に挙げましたが、患者の立場に立てば、(急性期医療を担う)大学病院こそきちっとしていてもらわなければいけない。ところが実際には中小病院がたくさん7対1を取ろうとしてきたんですよ」
 これに対しては、中小病院の代表として木村氏は反論します。
「看護師が必要なのは急性期だけではありません。うちの病院も老人が多いですが、老人の場合、退院まで目が離せないんです。看護師の数は必要ですよ」
 久常氏は言います。
「確かに急性期も慢性期も含めてこれまで看護師は足りなかったんですね。ただ、辞める看護師が年間10万人近くもいるんです。彼女たちを辞めさせない環境をつくることが実は一番大事なことなんですね。辞めるのはなぜか? 8時間労働の夜勤の時に45分間は休めるはずなんですが、実際にはゼロ。休憩時間はないのに、医療関連で看護職だけが給与が下がっている。こういった状況を改善しなければいけないんです」
 精神科医の和田秀樹氏は言います。
「看護師不足の問題は地域ほど深刻です。看護師は結局、都会の病院や大きな大学病院で働きたがる。地味に地域医療をやるというのは人気がない。実は地域の方がよほどよく頑張っている病院もあるんですけどね。そういったブランド志向を直していかなければなりません」
 久常さんは反論します。
「深刻な看護師不足は実は東京なんですよ。子供を抱えながら働いている看護師もたくさんいますが、ちょっと給料が高くなるからといって、地方を捨てて都会へ行きますか? そんなことないですよ。自分が慣れた病院で仕事をするというのが安全面からしても一番いいわけですから、そんなに簡単に都会の大病院にばかり集まってしまうということはありませんよ」
 改革には痛みや一時的な混乱が伴います。痛みがあるから、混乱が起きたからといって、改革そのものをやめてしまうことは間違っています。この7対1看護も確かに今は現場に混乱を起こしているようですが、やめてはならない改革だと私は思います。久常氏が言うとおり「これまでが悪すぎた」ということなんでしょう。ここで浮かび上がった看護職の抱える問題点を総体的に改革していくことこそ、今求められている喫緊の課題だというべきではないでしょうか。

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