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コラム — NURSE SENKA

「NURSE SENKA」2007年 6月号
産科医療で看護師の内診が新たな問題に、具体的な対策が早急に求められている

刑事事件として摘発され、看護師の内診にストップがかかる
 産科医療が危機的状況になる中、さらに状況を悪化させる要因となっているのが、看護師の内診問題です。ナースのみなさんには説明するまでもありませんが、妊婦の産道に指を入れて子宮口の開きを確認したり、胎児の頭の下がり具合を確認したり、破水をしているかどうかを診たりするのが内診です。しかし、内診がそもそも医師と助産師にしか認められていない行為だということをご存知だったでしょうか?
 実際の産科の現場では看護師が行うことが当たり前の光景になっていましたから、まさかそれが法律違反だという認識はなかったのではないでしょうか? ところが、平成17年、横浜の産婦人科がいきなり刑事事件として摘発されたことから、全国の産科で看護師の内診にストップがかかりました。このためにお産を扱えなくなる医療機関が続出したのです。
“事件”が起きたのは横浜市の産婦人科「堀病院」です。平成15年、37歳の妊婦が長女を出産後、分娩時弛緩出血により大学病院に搬送され、翌年2月に死亡しました。これに対して、准看護師が内診をしていたとして、遺族が横浜地裁に提訴。堀病院は家宅捜索を受け、病院長らが保助看法違反として書類送検されました。結果的には今年2月、横浜地検は起訴猶予としました。地検は「産科医療の構造的問題」を指摘するなど、医療現場の実情を考慮して判断したようです。とはいっても、看護師の内診そのものを容認したわけでもなく、問題はそのままとなっています。
 保助看法第3条で助産師は「助産又は妊婦、じょく婦若しくは新生児の保健指導を行うことを業とする女子」とあり、第30条で「助産師でない者は、第3条に規定する業をしてはならない。ただし、医師法の規定に基づいて行う場合は、この限りでない」とされています。「保健指導」の中身は明確ではありませんし、「医師法の規定に基づいて」とあるものの、医師の指示の下なら内診をしてもいいということなのかどうかもはっきりしません。
 ところが、厚生労働省は平成16年に看護課長名で内診は看護師には認められていないという見解を出したのです。堀病院に捜査が入ったのもこの通達が根拠になっていたと思われます。日本産婦人科医会常務理事の神谷直樹氏は憤懣やる方ないという表情で不満をぶちまけました。
「昭和23年、保助看法ができて50年以上看護師の内診について厚生省からは何の指導もなかった。それが突然ああいう通知を出されたんですよ。50年もやってくればそれは文化になっているでしょう。助産師さんは数が少なくて来ていただけないのですから、これまで看護師に内診をやっていただいていたんです。それが急にダメとなったら、妊婦さんの行き場がなくなってしまいますよ」

あくまで資格の問題助産師を増やすべきと日本助産師会
 助産師は全国で約2万6000人いますが、日本産婦人科医会の調査では必要数に7000人足りないそうです。日本助産師会専務理事の岡本喜代子氏は言います。
「もっと早く助産師不足という現状を行政が認識していればこういうことにはならなかったと思います。これまで偏在はあると言われていたんですが数の問題には目が向けられて来なかったんです」
 神谷氏は言います。
「内診と一言で言っても、実はいろいろなレベルの17項目あるんです。その中で子宮口がどのくらい開いているか(頸管開大度)、赤ちゃんが膣の入り口から何センチくらいのところまで降りているか(児頭下降度)、その2つだけなら看護師が診療の補助ということでやってもいいのではないかというのが、私たちの思いなんです」
 しかし、これには岡本氏は「あくまで資格の問題ですから、そう簡単に認めるわけにはいきません」と明確に反対意見を主張しました。
 森まどかキャスターが鋭い質問を岡本氏に投げかけました。
「看護師が内診をすることで妊婦にとってリスクが生じるんですか?」
 岡本氏は答えました。
「内診には感染の危険もあるわけですから、助産師は内診の回数をできるだけ減らそうとします。でも看護師の場合には、何十回もやったりすることがあるということも聞いていますから、それだけ感染の危険性は高いかもしれません」
「それなら内診のトレーニングをしっかりしたら、問題ないのではないですか?」
「看護教育の中でキチンとすれば大丈夫でしょうが、現状では看護教育そのものも過密で、とてもそれ以上のトレーニングをすることはできません」
 私も聞きました。
「これまで内診をやっていた看護師に改めて研修をして産科医会などが認定すれば問題ないのではないですか?」
「そんな簡単なものではありません。あくまで助産師を増やすべきなのであって、資格はやはり資格ですから」
助産師会としては助産師という資格に対するこだわりは強固なものがあるようです。
「この際、保助看法を改正し、看護師、助産師、保健師を一本化して、すべて看護師にする。その上でそれぞれ専門性を高める。そういう抜本改革を検討すべきではないですか? そうすれば看護師が特別な研修を受ければ内診ができるようにもなるのでは?」
「それなら看護教育を医者と同じ6年にすべきですし、卒後研修制度も必要です。そんないきなり一本化するなんて無理です」

妊婦の行き場がないという緊急事態をどう乗り越えるのか
 そもそもきっかけとなった堀病院“事件”は、妊婦の死亡は内診とは無関係でした。それにもかかわらず、看護師の内診問題に発展したのはどういうことなんでしょうか? 結果的には助産師不足の現状が浮かび上がったのはよいとしても、それによって妊婦の行き場がなくなってしまったという混乱は困ったものです。そのために、構造的問題を解決するという中長期的な改革は必要ですが、同時に今できる具体的な対策を早急に行うべきだと私は思います。
 日本助産師会が自分たちの資格にプライドを持ち、誇り高く仕事をされていることは素晴らしいことだと思います。ただ、今起きている緊急事態をどう乗り越えるかについてはもう少し、柔軟な姿勢を取るべきではないかというのが私の率直な印象でした。

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