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コラム — NURSE SENKA

「NURSE SENKA」2010年10月号
過去を背負ったままの看護師養成教育コースを大学一本化に進められるか

日本看護協会は看護師教育の4年制大学化を主張
 看護師養成教育最大の問題は何か? それは資格取得までの道があまりにも複雑なことではないでしょうか? 医師になるための教育課程はたったひとつ。大学の医学部を卒業して国家試験。それだけです。
 ところがナースの場合は、高校を卒業して3年の専門学校、あるいは看護短大、あるいは大学を卒業して国家試験。それ以外に高校の衛生看護科から5年制。さらに准看護師から進学課程を経てというコースまであります。多様性があっていいという見方もできるかもしれませんが、ただ単に過去を背負っているだけの話ではないのでしょうか。
 ナースとはそもそも何か?
どういう教育をして、どういう仕事をするべき職能なのか、その根本の理念が統一されていないと見られても仕方ないでしょう。実際にこの問題に焦点を当てて議論をすると、やはりそうだったと思わざるを得ませんでした。
 日本看護協会は「今後の医療に対応していくためには、看護師教育の4年制大学化が重要」と主張していますが、私は当然のことだと思います。これに対し、日本医師会が反対するのは容易に想像ができるのですが、看護界からも反対の意見が出てきて驚きました。看護教育の現場では看護大学一本化は必ずしも当然のことと受け止められていないようです。

専門学校は職業人として実践能力の育成、大学は思考力を重視
 議論に入る前に、まずは、そもそも看護専門学校と看護大学では、どんなふうに教育内容が違うのか、取材してみました。
 専門学校における教育について、成田赤十字看護専門学校の臼井陽子副学校長は言います。
「専門学校は職業人の育成に視点を置いて、看護の実践能力の育成に焦点を絞っています。知識と判断力を持って実践ができるということを目標にしています」
 学生時代に少しでも実践に触れることで、看護師になって現場に出た時の恐怖心を和らげるのだと言います。学生は専門学校を選んだ理由について次のように語りました。
「大学は他の看護でない勉強もたくさんしなくてはいけませんし、実習にあまり行けないと聞いていました。専門学校なら1年生のうちからも実習ができます。やっぱり実習することで身になっているので、こういうことができる専門学校がいいなと思い、この学校に決めました」
 これに対し、古い伝統を持つ聖路加看護大学の菱沼典子看護学部長は言います。
「大学っていうのは職業訓練をする場所ではありません。言ってみれば思考力や考える力を付けるところです。自分は考える時にどんな癖があるのかということを自覚する。それから新しいことを学びとっていく時にどういう方法で学ぶのか、自分で身に付けるというのが、大学が持っている機能だと思います」
 例えば、注射の授業を覗いてみると、学生は注射の練習をしているのではなく、教員のデモンストレーションを見ながら、ノートを取っていました。注射を行う手順だけでなく、どうしてそのような作業を行わなければならないのかの根拠を書き綴っているのです。こういうプロセスを経た上で、自分たちも実際にやってみるのだといいます。
 さらに大学では、疑問に感じたことを自分の力で解決できる能力を身に付けさせます。図書館などの施設も充実しているので、それをうまく活用しながら看護を実践するための思考過程を訓練する教育が行われているのです。

看護師養成教育の4年制大学一本化に看護界からも反対
 看護教育を4年制大学に一本化することについて、専門学校の代表たる日本看護学校協議会会長の荒川眞知子氏は次のように反対理由を述べました。
「看護師になる道は多様でいいと思います。取材のVTRでは専門学校は即戦力、大学は思考と言っていましたが、私は必ずしもそうだとは思いません。専門学校で思考を育てていないわけではありません」
 日本赤十字看護大学教授の川嶋みどり氏は言います。「大学も今、求められているのは実践力です。マンパワーの対象になっていますから、実践力を持たずに卒業したら大変です。考えるだけでは仕事はできません」。
 最近は基礎看護技術がほとんどできないままに入ってくる新人ナースが多いという話を、以前にも取り上げました。その時には、専門学校卒はできるが、大卒はできないという話はありませんでした。いずれとも実践教育が不足しているというのが、私自身の印象ではありました。荒川氏はさらに続けます。
「大学が増えるのは賛成です。ただ、専門学校は今ちょっと変わってきていて、社会人入学として大卒者が増えてきています。しっかりと考えるチカラを持った大学を出た人の学びは、18歳で来た人とは違います。大学に一本化されれば、そういう人が入りにくくなるのではないでしょうか」
 これと似たような話は准看養成停止問題の時にも出てきました。准看養成を停止すれば、社会に出てから、看護の世界に入ろうとする人に門戸を閉ざすことになるというのです。こういう発想をしているかぎり、制度の変革はできないと私は思うのですが。
 荒川氏は経済的問題にも言及しました。今回、取材した成田赤十字看護専門学校と聖路加看護大学を比較すると、入学金は5万円と40万円、年間授業料で34万円と100万円強と大きな差があることは事実です。聖路加は特に高いようですが、関東の国立大学で入学金28万円、授業料53万円で大学の方が高いことは間違いありません。荒川氏は言います。
「専門学校でも授業料100万円のところもありますから、必ずしも専門学校は安いということでもないのですが、また、安いから専門学校がいいと言われても困ります。ただ、大学4年制に一本化されれば経済的理由で看護師への道が閉ざされてしまう人は出てきてしまいますね」
 この問題は奨学金制度の充実などで乗り越えられる問題ではないのでしょうか? 荒川氏の看護専門学校に対する思いは強烈なものがあるようです。なんと、大学に一本化するよりも4年制の専門学校を作った方がいいと言うのです。
 私などは同じ4年制になるのなら、皆さんは大学の方がいいのではないかと思うのですが、そうではないのでしょうか?
 いずれにせよ、大学4年制を看護界の主張として行動を起こしていくには、まだまだ議論が必要なようです。

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