■脚本・監督:千葉茂樹
■企画・製作:市民グループ地球家族の会、小島好美/千葉茂樹
■共同製作:映像教育学研究会(日本映画学校) 日本映画映像文化振興センター
■出演:Jane Mills / Michele Shepherd、NSW州・教職員の皆さん、
NSW州・公立小学校及び高等学校のこどもたち
■ナレーター:藤 真秀
■本編:60分
■千葉茂樹ブログ:http://shigekic.livedoor.biz/
「シネリテラシー」の実践は、ニューサウスウエルズ州の教育省が、2001年にはじめた実験的な教育です。
映画を初等・中等教育の現場に本格的に取り組み、映像を深く読み・書く課程=短編映画の製作を通して、子供たちに楽しい体験学習をさせながら創造的な教育成果をもたらしています。単に学力の向上に留まらず、考える力や共同作業を通しての人間教育、コミュニケーション能力の育成や学習意欲の向上を引き出しています。
子どもたちの表情は見違えるように変化していきます。
いま、日本の教育現場では深刻な問題を多く抱えています。学習意欲の低下、不登校やイジメの問題、さらには増加する外国人労働者子弟の教育問題など。学校で、子ど もたちは学ぶことの面白さを実感できているのだろうか。
移民の子どもたちが多いオーストラリアの教育現場もまた、多くの問題を抱え教育者は解決策を真剣に模索してきました。その中心的な人物が映画教育専門家ジェーン・ ミルス女史で、映画が果たす文化的な使命について熱く語っています。
最近では、日本でも青少年対象の映画製作が始まっていますが、教育現場での展開は
これからの課題であり、その貴重な参考となるものです。
他にも市民講座や企業などの人材養成のなかでも、映画教育・シネリテラシーが果たす役割が期待されると思います。
この実践は、単に日本だけの参考というだけではなく、21世紀を迎えてますますグローバル化する世界にとって国際理解と平和の構築に役立てるものと確信しています。
映画監督 千葉茂樹
テレビにしろ映画にしろ、映像は目の前にあふれている。そこにはいっぱい意味がつまっているのだが、あまりにもたくさんあるので、だいていはぼんやり見過ごしてい て、そのくせ知らず知らずに影響されている。映像の意味をしっかり読み解く練習が必要である。
ではどうしたらいいのか。それには自分で映画を作ってみるのがひとつの方法である。
作りながら、目の前にある出来事をどう切り取り、どう動かし、どう組み合わせるかを考える。
映像教育先進国のオーストラリアではmそのやり方が組織的に深く研究されていて、いい成果をあげている。すぐれたドキュメンタリー映画作家であり、映画づくりの教育者でもある作者が、その実際を分かりやすく勘どころをきちんとおさえながら記録している。それがこの映画である。これは日本でも大いに参考にできる有難い映画である。ぜひ広くおすすめしたい。
映画評論家 佐藤忠男
『本番です。静かにしてください
ここは子供たち(小・中学生)の真剣な映画作りの現場、オーストラリアのシドニー郊外を舞台に展開されるシネリテラシーの実践・撮影模様がフラッシュされます。
オーストラリアは、21世紀の世界を象徴する国家だと言われています。世界の200以上の国と地域から移民を迎え入れたオーストラリアでは、様々な民族が共存、共生して
いるからです。
その国の教育現場で、近年あたらしい取り組みが始まっています。
2005年6月、NSW教育訓練省が主催するシネリテラシー(映画教育)の研修会。
参加者は、小中高の教師たち28名。主に国語や美術、音楽などの教師達です。なかには学習意欲の低い子供たちに直面して、悩みを抱えた教師たちも少なくありません。
ジェーン先生は話します。
『シネリテラシーは、映画を読み解く、そして書く(製作)プロセスを通して子供たちの学習意欲を高めること、目的は教育なのです』
参考の映画を用いてストーリーが意味していることを読み解くこと、Reading theScreenが、前提となります。
映画を読み解く方法が「5つの要素」が提示されています。
美術設定、装飾、小道具、衣装など
画面構成、焦点、拡大/縮小、手持ち、固定、角度、サイズなど
配役、容姿、性別、人種など
台詞、音楽、効果音、サイレントなど
場面構成、テクニカル効果、テンポなど
翌日、研修会前期のまとめとして、ジェーン先生は参加者が各学校で半年間に取り組むシネリテラシーの実践計画の作成をさせました。そして、共通のテーマには「多文
化主義」を提案したのです。
NSWの教育訓練省で、『シネリテラシー』を積極的にすすめて来た担当者は、その経過と苦労ぶりを語ります。
研修会に参加した教師の中から3つの学校を選んで取材が進められます。初めは、Reading the Screen。
シドニーの中心部から南西へ約20キロ、この地域はインド、スリランカからの移民が多く住んでいます。校門には「シネリテラシー実地校」の看板が掲げられ、地域全体
の取り組みが始まっていました。
校長のクリス先生は言います。
『この学校に通う子供たちは、理数科系は強いのですが、創造性に乏しい傾向があるので、シネリテラシーを取り入れました』
5年生担任のウェンディー先生のクラスは25名。生徒たちはまず短いコメディ映画を見て話し合い、映画用語を書き出して、その内容や役割を理解することから始めました。
この地域の特徴はアジア、アフリカそして先住民族のアボリジニが多く住む土地柄です。親の識字率が低く、教育の場としての学校への認識が乏しい親も多いのです。従って、3つの学校の中では難問を抱えたひとつと言えますが、それだけに、保護者たちが学校に寄せる期待が大きい一面もあります。
ここでは、5年生と6年生を受け持つ、二人の女性の教師、ストーリーとバネッサ両先生による合同実習をとりあげていきます。
この地域は中東系の移民が多い新興地です。ハイスクールとはいっても日本の中学校・高校一貫校にあたり、生徒数は約千人。美術担任のキャサリン先生は選択暮らす(22人)でシネリテラシーに取り組みました。
地域環境もあって、子供たちの学習能力や意欲の決して高くはないと担任は言います。
キャサリン先生はまず、クラシック映画のワンシーンを使って画面の構成について話し合います。
前期の研修から1ヶ月後の7月。後期2日間の研修会は、撮影やPC編集設備が整った公立高校で行われました。
参加者は、3組の製作プロダクションに立ち上げて、Writing the Screen(映画製作)の実習えお手がけます。それぞれ3分間の短編映画を製作するのです。その課程でジェーン先生は確認します。
『シネリテラシーのポイントは、映画製作が狙いでないということ。トレーニングでもありません。むしろ教育なのです。その教育の目的は子供たちの学習への興味(エンゲージメント)を強めること、そして彼らのリテラシー能力を高めることなのです』
最終日、教師たちの短編映画つくりは、大車輪で進められました。
ひとつのグループは『大道芸人』という短編作品をつくり他の2つのグループもそれぞれ作品を完成させ発表することが出来ました。このような研修と実践を可能にしたの
は、参加した教師たちの熱意とカメラ、パソコンなど、新機材の導入によるといえるでしょう。
再び、3つの学校で進められる、Writing the Screen(映画製作)を追跡します。
9月に入るとバネッサ先生のクラスは、シナリオ作りを始めていました。この課程は、文章力向上を目指すことです。
ストーリーは、アジアから転校生を受け入れたクラスの出来事。タイトルは、「ALong way home」です。
一方、スーリー先生のクラスは、そのシナリオをもとにスタッフ編成を終えて、リハーサルを始めています。アボリジニの少女の監督と中国系の男子のカメラマンという、多民族国家らしいスタッフ編成です。
撮影は9月、10月の約2ヶ月間を使って、毎週さまざまな授業をアレンジして進められます。
ウェンディ先生のクラスではセット撮影が始まっていました。
タイトルは、「Class of 2005」です。居残り組みの生徒が、本の中に吸い込まれて不思議な世界を体験するというストーリー。いかにも子供らしいアイディアに、クラス
全員が現代っ子らしい工夫を凝らして取り組みます。
合同授業で取り組んだチームは、2班に別れてひとつの作品を製作しようというのです。
何よりもコミュニケーションの大切さと監督のリーダーシップ、そして各自の責任感が問われます。
キャサリン先生と撮影スタッフは、地元のショッピングセンターでロケをすすめます。
監督には、授業中の態度はけして良くないが、クラスを引っ張るボス的存在な少年が選ばれました。カメラマンもアラブ系の少年で、キャサリン先生にとっては冒険でし
た。
映画の内容はアジア系の少女たち3人が考えたラブストーリー。
美しい一人の少女を奪え合う男子二人がボクシングで対決する「Million Dollar Girl」。クライマックスのボクシングシーンでは、プロデューサーの努力で地元警察
のジムに協力して貰いました。
プロデューサーを担当した生徒の母親が語っています。
『この映画作りを通して、勉強嫌いの息子がとても変わりました。大学に進学したと言い始めています。いい授業に出会えて喜んでいます』
生徒たちの編集作業は続きます。この段階で、キャサリン先生は、特にひとり一人の長所や能力を正しく評価し、生徒に自信を与えるのです。自分たちの撮影した画面を 前に、生徒たちは真剣です。そして、その表情には大きな変化がみられます。
12月初旬、いよいよ映画上映会の開催です。
地元、キャンベルタウンの映画館が2日間協力して、午前中の会場を子供たちのために提供しました。この日のために会場には、レッドカーペットが敷かれています。
1日目は、小学校の部、4校の作品上映。2日目には、高校生らが6本の作品をもって登場します。子供たちは大きなスクリーンに映し出される自分たちの映画に、目を輝か
せ誇らしげです。教師と保護者たちも子供らの手作り映画の完成を喜んでいます。
これらの映画づくりには、地域社会や住民たちの協力が不可欠です。シネリテラシーは学校、課程、地域の連携によって従来にない成果をあげることになるのです。 民族や文化が違っても、どの子どもにも大きな可能性があります。それを存分に花開かせる文化的資源、その一つがシネリテラシーだと言えるのです。